昨年、同じ筆者の『美について』を読み、有意義な時間を過ごした記憶があり、この本もきっと面白いだろうと期待していた。その期待通りに充実した時間を過ごすことができた。一回読み終わってよく分からない部分もあったので、二回読んでみた。
この本の内容はもともと東京大学での講義用に作られたノートだったそうだが、もし講義を実際に聴いていたなら、考えることの楽しさを教えてくれるアカデミックな雰囲気に浸ることができたに違いない。講義で聴いた重要な内容を忘れないためにノートをとるような気持ちで、ぼくは本の多くの箇所に線を引いた。
筆者はこの本で愛について考えるに当たって古今東西の哲学者、宗教家、文学者、心理学者などの言を引用しつつ、現代人にとっての愛の持つ意味、愛の種類などについて存分に語っており、ぼくはそれを聴きながら、たくさんのことを学んだように思う。
この本について筆者自身は次のように語っている。
《私の独自の思想は、この本の中では、現代社会の把握の仕方、愛と技術連関との関係、性の存在論的意義づけ、愛の問題と相関的に見られた自己存在の意義、友情の省察、などであります。》
これらについて考えるに際して、筆者は古典的な考え方を引用しつつ、筆者自身はどう考えるのかゆっくり丁寧に語っており、ぼくのような無学の者にも分かりやすい。もちろん、一度や二度この本を読んだだけで、愛とは何か分かるはずもないけれど、愛について考える喜びのようなものを感じることはできた。
ところで、福田恒存の『人間・この劇的なるもの』はぼくの愛読書だと言ってもよい本だけれど、この『愛について』のなかに『人間・この劇的なるもの』に通じるような考え方が述べられているところがあって、ちょっと驚いた。
《われわれは人間として存在している以上、何ものか知られざる、われわれの存在を支えているこの物的なものに対して、土台としての意義を認めなければなるまい。
土台としての意義を認められたこのXは、われわれ人間の舞台なのである。舞台を愛さない役者は、いかなる演技を可能にするであろうか。仮に相手は
ここには『人間・この劇的なるもの』で語られる「劇的な人間存在」という考え方と同じ方向性があるように思うのだがどうだろう。
近いうちにまた『人間・この劇的なるもの』を読み返し、またその後にこの『愛について』も読み返してみよう。
『愛について』もぼくの愛読書になりそうな気がする。
『愛について』今道友信
中公文庫2001年3月25日発行