アマゾンにレビューを書きました。
第一次大戦というあまりなじみのない歴史において、とりわけ青島におけるドイツと日本の関係にフォーカスされて論じられている1冊である。
「日本の対独参戦が現実味を帯びてきた1914年8月11日、夏目漱石は名作『こころ』の新聞連載を終えた。」始まり、読者をその時代に引きずり込んでしまう。
「歴史上、第一次世界大戦の原因ほど、議論や論争、問題提起がなされたことはないという。本書ではこの戦争が始まる前の1880年代からの帝国主義の時代から各国の状況が書かれているので「なるほど」と理解しやすい。戦争がある日突然、ある国が(またはある人が)始めるものではなく、さまざまな国で長い年月をかけて少しずつ堆積していったものが複雑に絡まりあい、必然的な着火が行われたことがわかる。
戦争は社会状況、経済状況からと思っていたが本書を読んで「人種戦争」という面を知った。日本は明治以降ドイツから法学や医学を学び国を発展させてきたのだが、ドイツ人達は「日本人を人間として見なしたことはなく、並外れて教えやすい原猿類(下等なサル類)」と公言されている。
教養の浅い私は当初はパソコンで事件や地名などを検索しながら読んでいたが、しだいに本著の読み物としてのおもしろさに引き込まれぐいぐいと読み進めることができた。まるで第一次世界大戦の時代に生きて日々報道に接しているような感覚を持った。これほどを書き込むにはどれほどの一次資料の収集、読み込み(おそらくドイツ語、英語文献が大半であろう。語学力と忍耐に脱帽である)があったのかと思うと、それが2000円で、買い物帰りのショッピングセンターの中の本屋さんで手にできることは有難いというより僥倖と言うべきだろう。筆者と日本の出版制度に感謝するばかりである。歴史書としても読み物としても一流である。
これを読んでふと思い出したのだが、イギリスで語学学校に通っていた時のことである。講師のケンブリッジを卒業した(つまりはエリート層の)女性と話していた時、私が「日英同盟」を口にすると、彼女は全く知らず「どうして?ありえない。遠すぎるじゃないの」と不思議がっていた。また同じクラスの若く可愛い韓国のお嬢さんは私が山口県出身と知ると「下関条約」を即座に口にした。現代の世界では歴史の知識は本当に生まれ育った国によると感じたことを思い出した。
それにしても列国の中国への虎視眈々とした狙いが止むことがないのに改めてため息をつきたいような気持になった。現在、習近平の中国を巡る動きは「危険領域」に見えるが、こうして過去の歴史を見ればどうしようもないと感じざるを得ない(肯定しているのではない)
筆者には今ではどう考えても無謀だった第二次世界大戦の日本参戦について、また現在の政治も経済も社会も逼塞している日本の現状を果敢に論じるそれぞれの著作を期待したい。おそらくはこうした第一級の知識人の活躍こそが現在の暗たんたる社会において一筋の希望になるだろう。