歩兵戦闘車(IFV) | 戦車兵のブログ

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歩兵戦闘車IFV:Infantry Fighting Vehicle または ICV:Infantry Combat Vehicle)は、車内に歩兵を乗せることができる装甲戦闘車両(AFV)。

 

装甲兵員輸送車(APC)のように歩兵を運ぶばかりではなく、積極的な戦闘参加を前提とし、強力な火砲を搭載している。

 

さらに乗車歩兵の乗車戦闘ができるようになっている物が多い。

 

 

 

歩兵戦闘車は、APCより高価であるため財政的に厳しい国では配備されていないこともある。

 

 

兵員輸送能力
 
約7名前後の歩兵(1個分隊に相当)を車内に収容・輸送し、必要に応じて歩兵部隊は下車し、近接戦闘を展開する。
 
 
強力な火力
 
20mm口径以上の大口径の機関砲により、歩兵部隊に対して直接火力支援を提供するとともに、対戦車砲弾によって敵の同種車両と交戦・撃破する。
 
さらに対戦車ミサイルを装備する車両は敵の主力戦車を撃破しうる。
 
一部の車両では、乗車した歩兵が車内から携行火器を射撃できるような工夫が施されている。
 
 
装甲防護力
 
IFVは近くで爆発した榴弾の破片や機関銃弾から乗員・乗車歩兵を守るための装甲を備えている。
 
IFVは戦車に次いで強力な火力を有することから優先的に攻撃される恐れがあるため、多くの装甲兵員輸送車同様に鋼材が主な装甲材ではあるものの装甲兵員輸送車より高い防御力を備える傾向にある。
 
 
戦術機動力
 
IFVは機甲部隊の一員として戦車に追随できるだけの機動力、とくに不整地走破能力を備える必要があるため無限軌道で走行する車両(装軌車両)が大半である。
 
装軌式は接地面積が大きいため、機関砲の連射時に車体の振動を抑え、十分な装甲防御を支える必要からも好まれている。
 
近年では装甲兵員輸送車に強力な武装砲塔を搭載したIFVが増えつつあり、ベース車両の装輪式を継承した装輪式IFVも比例して増えつつある。
 
 

近代の戦場における歩兵の移動には、半装軌車(ハーフトラック)や、トラックが使われてきたが、不整地(オフロード)における戦車の移動速度が向上したため、戦車と共に行動することが難しくなった。

このことから、1950年代後半、フランス陸軍はAMX-VCI装甲兵員輸送車に7.5mm AA-52機関銃を取り付けていたが、12.7mm M2重機関銃を取り付けたもの(AMX-VCI 12.7)や最終的に20mm口径機関砲を搭載したもの(AMX-VCI M-56)が配備された。

 

 

 

そして1950年代後半、西ドイツ陸軍は、フランスのオチキスが開発したSP1Aを基にしたクルツSPz 11-2装甲偵察車、スイスのイスパノ・スイザが開発したHS30を基にしたラングHS.30歩兵戦闘車を採用した(ラングは史上初の「歩兵戦闘車」の名称を冠した車両となった)。

 

 

これらは当初より20mm機関砲を備え、兵員室にクルツは3名、ラングは5名を収容でき、ラングは乗車戦闘も可能だった。

 

クルツは7種合計2,374輌、ラングは6種合計4,472輌が生産された。ラングは車両としての信頼性の問題を抱えておりマルダーが開発される動機となった。

 

 

兵員室に10名を収容でき、26種類の派生車種合計で3,000輌程度が生産された。

 

これは、歩兵戦闘車の嚆矢ということができる。

 

 

また、第二次世界大戦前の用兵思想の変化から兵員輸送車両も移動中に砲火を浴びたり、直接戦闘に参加する場合が多くなり、防御力の付加を必要とした。

 

 

このため、装甲化された半装軌車や、無限軌道による装甲兵員輸送車が開発されたが、これらは武装として機関銃程度しか装備しておらず、歩兵支援には火力が足りない上に、戦場で敵の同種車両と遭遇した際に、軽戦車や歩兵戦車のような直協車両を伴わない限り、これを撃破できないという欠点もあった。

 

 

 

 

独仏両国から6年ほど遅れた1966年にソビエト連邦軍はBMP-1を採用した。

 

BMP-1およびBMP-2は現在に至るまで東側諸国で多数運用され、BMP-3に至っては西側諸国でも使用されているベストセラー兵器となっている。

 

 

BMP-1は西側諸国に「BMPショック」と言うべき衝撃を与え、ドイツはSpz HS.30の後継としてマルダーを、フランスはAMX-VCIの後継としてAMX-10Pを開発していたが、これらの配備が急がれた。

 

一方で陸上自衛隊の73式装甲車のように、歩兵戦闘車としての能力付加を見送り、純粋な兵員輸送車として制式化された例もある。

 

 

 

武装は大口径な73mm低圧砲と7.62mm連装銃と対戦車ミサイルであり当時としては高い火力を誇ったが、73mm低圧砲は弾道の安定性や砲自体の信頼性に問題があったため後継のBMP-2で30mm口径機関砲に変更された。

 

BMP-1は軽量なため浮航能力を有しており同じく軽量な車両やフロートを備えるK21も浮航能力を有している。

 

また、兵員室に8名を収容でき、ここにはガンポートを備えている。

 

ガンポートは密閉された兵員室に乗車した歩兵が携行火器を車外へ射撃するために車体に開けられた穴であり、これは車両の火力を増強するとともに、歩兵は車外へ出ることなく戦闘が行えるので核戦争などで周辺がNBC兵器で汚染された際には歩兵をこれらの汚染物質から守ることができる。

 

 

1976年に南アフリカで開発されたラーテルは装輪式の歩兵戦闘車であり、装輪式は装軌式と比べ不整地踏破能力・戦術機動力は劣るが、生産コストやライフサイクルコストの低さと戦略機動力が優れている。

 

他の装輪式歩兵戦闘車はカナダ陸軍のLAV III、ニュージーランド軍のNZLAV、フランス陸軍のVBCI、タイ王国陸軍のVN-1、中華民国陸軍のCM-34などがある。

 

 

また、低強度紛争・戦争以外の軍事作戦の頻度増大と防衛予算の縮小を受けて採用されたアメリカ海兵隊のLAV-25もある。

 

 

 

アメリカ陸軍は1958年よりMICVの名前のもとで歩兵戦闘車の実用化を計画していたが先にソ連でBMPが実現した。

 

また、AIFVはM113の車体を流用しているため車体の大部分にアルミ合金が使用されていた。

 

アルミ合金は榴弾等の攻撃によって装甲が融解し車体が大規模に崩壊する欠点がある。

 

そのため装甲兵員輸送車ですらアルミ合金を多用する例は少なく、IFVにおいてもアルミ合金を多用する車両はブラッドレー、ウォーリア、VBCI、K21と少ない。

 

 

ベトナム戦争時では現地部隊がM113装甲兵員輸送車を改造した応急の歩兵戦闘車型が多用され、1975年にオランダ軍がアメリカ陸軍主導で開発が進んでいたAIFVを採用した(なお、アメリカ陸軍は機動力等を理由にAIFVを採用せず1979年に実用化されたM2ブラッドレーを採用した。)。

 

 

AIFVはM113をベースに25mm口径機関砲を装備した歩兵戦闘車である。

 

当時、殆どのIFVが装備する20mm口径機関砲は貫徹力が高いが炸薬量不足で榴弾の威力が低く火力支援能力の低い欠点を25mm口径機関砲は解消した。

 

 

1986年からイギリス陸軍で運用されているウォーリアは前述のBMP-2登場後に30mm口径機関砲を装備したIFVであり、30mm口径は25mm口径と共にIFVの機関砲の口径として主流である。

 

機関砲に加え100mm低圧砲を装備する車両はBMP-3と04式歩兵戦闘車が該当する。

 

さらに近年では空中炸裂弾を採用することで被害半径を広げる工夫が行われており、Strf 9040、プーマなどが装備している。

 

 

第1世代IFVの多くがガンポートを備えていたが装甲に穴を開けることで防御力が低下しガンポートからは低火力なアサルトライフルしか射撃できなかった。

 

ウォーリアをはじめとして非対称戦争の多発による装甲強化の必要性からガンポートを備えない車両が増え、既存の車両でも装甲などでガンポートを塞ぐ場合があった。

 

 
1990年にスウェーデンで開発されたCV90はスタンダードな30mm口径機関砲に加え、89式装甲戦闘車と同様に35mm口径、K21と同様に40mm口径の機関砲を装備できるため採用国の要求に合わせてカスタマイズできる。
 
 
また、ウォーリアのようにガンポートを備えないだけでなく、ウォーリアと異なりアルミ合金ではなく防御性能の面で優れる鋼材を装甲に使用し人命を重視する構造となっている。
 
このため、前述の開発国であるスウェーデンをはじめヨーロッパにおいて多数運用されている。