自衛隊の最高指揮官たる内閣総理大臣が自衛隊の高級幹部に訓示した。
以下産経ニュースより転載
安倍晋三首相は16日、防衛省で行われた自衛隊高級幹部会同で訓示し、日々、過酷な訓練に耐え、最前線に立ち向かう自衛隊の日々の活動をたたえた。
訓示の詳細は以下の通り。
「本日、わが国の防衛の中枢を担う幹部諸君と一堂に会するに当たって、自衛隊の最高指揮官たる内閣総理大臣として一言申し上げたいと思います。
本年は戦後70年の節目の年に当たりまして、戦後わが国はひたすら平和国家の道を歩んできました。
しかし、その平和は、ただ唱えるだけで実現したのではありません。
時代の変化に対応しながら行動してきた、先人たちのたゆまぬ努力のたまものであり、自衛隊の存在なくして語ることはできません。
先人たちは変転する国際情勢の下、平和を守るために、そして平和を愛するがゆえに自衛隊を創設しました。
さらには日米安保条約改定、PKO(国連平和維持活動)法成立、そうした努力の上に現在の私たちの平和がある。
この節目の年に当たって、諸君たちとともに、その重みをかみしめたいと思います。
しかし、昨日までの平和は、明日からの平和を保障するものではありません。
56年前の今日、12月16日、憲法の番人である最高裁判所は、判決の中で、このように述べています。
「わが国が自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な自衛のための措置を取りうることは国家固有の権能の行使として、当然のことと言わなければならない」。
変転する国際情勢の下、必要な自衛のための措置とは何か。これを考えることは、私たち政府の最も重い責任であります。
今を生きる私たちもまた先人たちにならい、国際情勢の変化に目をこらし、必要な自衛のための措置をしっかり講じていかなければならない。
私たちの子や孫に平和な日本を引き渡すために、強固な基盤を築かなければなりません。そのことを考えた抜いた末の結論が、平和安全法制であります。
審議の過程においては、自衛隊員のリスクをめぐって、さまざまな議論がありました。
しかし、諸君には、もどかしい思いがあったかもしれません。
いかなる事態にあっても、国民を守り抜く。
安全保障環境が厳しさを増す中、国民のリスクを下げるため、そのためにこそ自ら進んでリスクを引き受ける。
それが諸君たち、自衛隊員の気高き志であるからであります。
事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂につとめ、もって国民の負託に応える。その宣誓の重さを、私は、最高指揮官として、常に心に刻んでいます。
自衛隊員に与える任務は、これまで同様、危険の伴うものです。
しかし、その目的は、ただ一つ。
すべては国民の命、平和な暮らしを守り抜く。
そのことに変わりはありません。
その強い使命感、責任感をもって、それぞれの現場で、必要な備えに万全を期し、任務を全うしてほしい。
そして、幹部諸君には、現場の隊員たちが、新たな任務を安全を確保しながら適切に実施できるよう、あらゆる場面を想定して、周到に準備してもらいたいと思います。
安全保障をめぐる議論は常に国論を二分してきました。
戦争に巻き込まれるといった、無責任なレッテルはりは、今回の平和安全法制に限らず、60年安保のときも、PKOを制定したときも行われてきました。
しかし、時代は大きく様変わりしました。
かつて行われた、自衛隊の存在自体が憲法に違反するといった事案は、今回国民的にはまったく議論にならなかった。
それは諸君に対し、自衛隊が国民が大きな信頼を勝ち得てきたからにほかなりません。
御嶽山が噴火したときも、関東東北豪雨による洪水被害のときも、そこには必ず、人命救助に向かう陸上自衛隊の姿がありました。
1万2千キロ離れた交通の要衝、アデン湾では日本の海上自衛隊が世界の船舶から頼りにされている。
10年間で7倍にも増加した国籍不明機による領空接近にも、24時間365日態勢で日本の空を守る航空自衛隊の諸君がいます。
それらは国民の目にしっかりと焼き付いている。
国内だけではありません。
自衛隊が初めてPKOに参加したカンボジアのフンセン首相。
2年前、台風による被災者の救援活動を行ったフィリピンのアキノ大統領。多くのリーダーたちが、世界の平和と安定のために汗を流す諸君たちを称賛し、その礼儀正しさに尊敬の念を抱き、そしてその能力の高さを大いに頼みにしています。
こうした世界のリーダーたちから、平和安全法制は高い評価を得ている。
これも諸君たちが長年にわたって世界に貢献してきた、その証であります。
国民の信頼、そして世界の期待、それらを胸にしっかりと刻みながら、新たな任務にあたってもらいたいと思います。
さらに、その信頼と期待にいっそう応えられるように、その能力を高める、常に最善を尽くしてほしいと思います。
私は、現場からの問題提起を歓迎します。
現場が直面する、さまざまな課題に、必ず応えることが、これは最高指揮官たる私の大きな責務であります。
自衛隊の隊員一人一人が、私とは、この場にいる諸君を通じて結ばれている。
私はそのことを忘れたことはありません。
私と現場との紐帯の強さこそが、わが国の安全に直結すると、そう信じているからです。
私は現場の情報を何よりも重視しています。
統合幕僚長を含む安全保障スタッフから毎週さまざまな情報や自衛隊の運用能力について報告を受けている。
国家安全保障会議も開催し、さまざまな課題について議論し、判断を下しています。
防衛省、自衛隊からもたらされる日々の公開情報、戦略情報は各国との首脳会談を行う上で、そして内閣総理大臣としてベストな意思決定を行う上で、欠かせないものとなっています。
今や諸君の日々の活動の一つ一つが日本の国益に直結している。
この事実を改めて諸君に認識してもらい、そして、そのことを肝に銘じ、職務にいっそう邁進してもらいたいと思います。
さらに、諸君が世界を視野に入れて、ダイナミックに活動し、そして、行動してもらいたい。
私はこれまで既に63の国と地域を訪問しながら、首脳会談の際に必ずといっていいほど、防衛協力が大きな話題となります。
装備、技術協力など防衛省、自衛隊が有する高い能力による協力が求められている。
諸君にはこれを大きく前に進めてほしい。
こうした協力を進めていくことが、ひいては世界の安定につながり、日本の安全を確かなものとすると、私はそう確信しています。
戦術的な関係にとどまらず、地域や世界における平和と安全にいかに寄与していくか。
戦略的な協力を進めてもらいたいと思います。
いわば戦略的な国際防衛協力であります。自衛隊の国際貢献が世界における高い評価を勝ち取るほど、自衛隊との防衛協力へのニーズも高まっていく。
それは必然の結果でもあります。
従来の発想に止まることなく、大胆に戦略的な国際防衛協力を進めてほしい。
そのことによって、私が地球儀を俯瞰する視点で展開する戦略的な外交・安全保障政策の一翼を担ってもらいたいと切に希望しています。
国民の命と平和な暮らしを守る。その崇高なる任務に最終ゴールなどありません。
国際社会は私たちが望むと望まざるとにかかわらず、変転を続けています。
こうした時代の荒波をしっかり見定めながら、未知なる事態にも、柔軟な発想力で立ち向かい、いかなる困難もひるまない強い使命感をもって、不断に努力を続けてもらいたい。
その中枢を担う幹部諸君には、大いに期待しています。
最後に2年前にもこの場で紹介した言葉をもう一度述べて、この訓示を締めくくりたいと思います。
『悲観主義は気分によるものであり、楽観主義は意志によるものである』。
フランスの哲学者、アランの言葉です。道を切り開くのはいつの時代も意志の力であります。
どうか強い意志をもって、それぞれの持ち場で、自衛隊の果たすべき役割をまっとうしてほしい。
私と全国民は常に、諸君をはじめ、全25万人の自衛隊とともにあります。
その自信と誇りを胸に、日本と世界の平和と安定のため、ますます、精励されることを切に望み、私の訓示と致します。
平成27年12月16日。自衛隊最高指揮官、内閣総理大臣、安倍晋三」
(産経ニュース)
高級幹部には賞賛の言葉だけでなく、自衛官に対して厳格に破廉恥事件の防止や高級幹部自らの不祥事を厳に慎むよう訓示して欲しかったね。
先日、元方面総監による教範をロシア武官に渡した事件で、優秀な将官がとんだトバッチりで退官していった事案があった。
ああいうことは二度と熾きない自衛隊高級幹部は自らを律してもらいたいと最高指揮官は訓示すべきだったね。