
後方支援というものが前線で戦う者にとっていかに大事か、風呂もそうである。
以下産経ニュースより転載
きっかけは、昭和34年の伊勢湾台風だった。
5000人を超える犠牲者を出した上、ライフラインは寸断され、風呂に満足に入れない被災者が続出した。
救助活動に入った陸上自衛隊員が、パイプとシートを組み合わせて簡易風呂を製作した。
これが予想外の好評を博し、自衛隊員からも装備化を求める声が上がった。

陸自は45年、隊員の戦意高揚や士気向上になるとして、“簡易風呂”の導入を正式に決定した。
タンク車が水を運び、移動式ボイラーでお湯を沸かすため、ガス管や水道管が遮断されても風呂に入ることができる自己完結型の入浴施設だ。
一般社団法人、中央調査社が行った世論調査によると、湯船につかる入浴習慣が「好き」「どちらかといえば好き」と答えた日本人は計94.8%に上る。
過酷な状況に置かれれば、なおさら風呂に入りたいと思うのが人情というものだろう。

現在の入浴セットは「2型」と呼ばれ、平成9年から導入されている。
約4500リットルの注水が可能な浴槽を2個備え、1日1200人の入浴が可能だ。
1台につきシャワーは14本あり、すのこや脱衣かごも標準装備されている。

入浴セットは15個師団・旅団の各後方支援連隊に計27台が配備されている。
東日本大震災ではすべてが被災地に投入された。
それでも足りず、自衛隊自作の簡易風呂や、米軍の移動式シャワー施設と合わせて計41台も使われた。
通常、入浴セットは1日10時間しか使えないが、ピーク時は15時間に延長した。

「朝は当日の準備のため午前5時に作業を開始し、午後10時の入浴時間終了後から翌日午前2時まで清掃しなければならない。救助・捜索活動などで慢性的な人手不足で、担当自衛官はほぼ不眠不休で作業に当たった」
陸自担当者はこう振り返る。被災地で入浴した人の人数は延べ約93万人に上ったという。
9月に発生した御嶽山噴火による救助活動でも活躍、火山灰まみれになった隊員らの貴重な「癒し」になった。
とはいえ、自衛隊の主任務はあくまで国防だ。入浴セットには、赤外線を遮断する「偽装網」が備え付けられ、敵による発見を防ぐための遮光機能も備わっている。
ただの簡易風呂ではない。
ちなみに、米国をはじめとする世界各国の軍隊は移動式のシャワー施設を保有しているものの、陸自関係者は「浴槽付きの移動式入浴施設を持っている軍隊は自衛隊以外に聞いたことがない」と語る。
まさに、風呂好きの日本人で構成する軍組織ならではの装備だ。
厳しい予算査定で鳴らす財務省も、防衛省側が「1日中厳しい戦闘現場にいたら、風呂に入って疲れを取りたいですよね」と説明すると、スムーズに話が進むという。(政治部 杉本康士)
(産経ニュース)

かつてパラオのぺリリュー島で戦った日本軍将兵は風呂にも入れず、米兵は日本兵が夜陰に紛れて夜襲しようと近付くと日本兵の体臭で気付いたという。
風呂というのは衛生上や癒しだけでなく、戦術的にも必要なのだ。