じとっこ連続短編小説 第一弾 「まる」vol.1
ここは、秋葉原。AKB48シアター前。
もちろん、バス停の名前ではない。
ここから、前田敦子、大島優子、板野知美、篠田麻里子、峰岸みなみ、高橋みなみ数々のアイドルたちが歌い、おどりくるってた劇場だ。
そんな場所にまるはたっていた。時刻は午前様だ。
終電にむかう人のさざ波に立ちはだかる様に。。。仁王立ちだ。
まるは、某神奈川県S南市の名家で育った。まぁ、ぼんぼんだ。
友達は金で買えと教え育てられた、3兄弟の末っ子だ。
祖父はS南市では知らないものはいない、市議であり、父親は建設業をはじめ飲食業、遊技業と数々の成功をおさめてきた。
まるは、某早稲田大学に2010年の春に入学した。が、友達が出来ずに翌年の夏に自主退学した。
そんな、祖父、父に負い目を感じひとり家を飛び出してきたのである。
所持金も知人もいない。ましてや、今まで一人で何かをした事がない。ただ、家族から逃げる事が今の自分のできる唯一の事だった。
まるは最終のつくばエクスプレス(TX)に飛び乗った。酒の臭いとたばこ、香水の臭いがまじった終電独特の雰囲気にまるは酔ってしまった。
ふと降りたのは北千住駅、行くあても無い。住む家も職もない。
北千住の西口を出て、千住ロードを西へ3分ほど行くとりそな銀行がある(TUTAYAもある)、そこを左に曲がり5分程歩くとTOPOSが見えてくる。
TOPOSの角を左折すると目の前に「日南市 じとっこ組合 北千住店」の看板が見える。
まるの目に移ったのは「スタッフ募集中」の案内だった。
看板は消えていたが、店内は賑わっていて楽しそうな空気がまるの背中を押した。
「あの~、アルバイトって募集しています?」まるは無意識に扉をあけていた。
「募集してるよ。なに?うちで働く?今日はおそいから明日の12時にまたきな。
あっ。履歴書わすれないでね。」
「はい、わかりました。」
所持金のなかった丸だが、幸いカードは持っていた。丸だけに丸井のカードだった。
○はカードを使い、駅前の個室ビデオで一泊したのち約束通り12時に履歴書をもち店に向かった。
が、店は開いていなかった。店長が寝坊したからだ。
10分ほどその場で待っていた後にM上氏が店の鍵を開けた。店で寝てしまっていたのだった。
「ごめん。昨日の子だったよね。履歴書もってきた?」
「はい」
(この人、店長だよな?寝ぐせ付いてるけど大丈夫かな?)
まるは内心、不安がよぎった。
30分の面接のあと、まるは質問した。
「いつから、働けます?」
まるは採用された程でいた。
M上氏もまるの情熱に押されたのだろう。
「いいよ、来週からきな。その前に入社手続きが有るから、そうだな明日の12時にまたこれるかな?」
「はい、ありがとうございます。」
まるの初アルバイト「日南市 じとっこ組合 北千住店」勤務が決まった瞬間だった。
住む家もないのに仕事を先に決めるなんて。と筆者は思う。。。
父と祖父に対するコンプレックスから飛び出した丸を母親のいとは理解していた。
多少強引すぎる、夫と義父とは同じには育てたくないと末っ子のまるだけは母乳で育てたからだ。
いとの助けもあり、まるは北千住に居住を構える事ができた。「日南市 じとっこ組合 北千住店」から目と鼻の先だ。
初出勤。初めて働く訳だから不安で仕方が無い。
まるは自己紹介で噛んだ。
仕事の覚えは早い方だった。しかし、単純なミスが多かった。
今まで怒られた事がなかったまるは、へこみ悩みそして反発した。
スタッフとの溝は深くなるばかり。まるはここでも孤立していた。
(これじゃ、大学にいたころと同じだ。また同じ事を俺はくりかえすのか?)
地元ではまわりから持ち上げられ、物を買い与え輪の中心にいたが、一歩外の世界にでるとまるで違った。ここはS南市ではないからだ。
まるは気付いた。自分が変わらなきゃ何も変わらないし、ましてや友達は金で買う物ではないと。
今まで自分を出す事しかできなかったまるは、相手を受けいれる事で現状を打破する事を覚えいじられキャラを演ずる事で今までにない自分を見つけたのであった。
AKB48シアター前にいた時から、半年が経っていた。
しかし、そんな丸も限界をかんじていた。
(もっと自由にいたい。やりたい。ほんとの自分をだしたい。でも、この場所には初めて友とよべる人たちがいる)
いつしか、まるは休日は一人でいることが多くなった。
ちなみに丸は姓であり、名はS次郎という。イニシャルはS.Mだ。
一人が楽だからだ。虚勢も見栄もはらなくていい、心地がよかった。
一人で酒もあおった。宮崎焼酎だ。
宮崎では夏でもお湯割りをのむらしい。
焼酎の香りも楽しめるからだという。まるは、「ひとり歩き」をロックであおった。
河島英吾の「酒と涙と男と女」が流れていた。
時を同じくして、K奈川県S南市丸家では・・・・
「あなた、やめて下さい。あの子は、俊ちゃんは、はじめて自分で考えて行動しているのよ。」
「だまれ!丸家の恥さらしが。はやく連れ戻さんか!」
「あなたに俊ちゃんの自由を奪う権利があるの?俊ちゃんももう立派な大人よ。」
「どこにいるのだ?言え!言ううんだ。」
(バシッ)
「ぶったわね。あなた、ぶったわね。親父にもぶたれた事がないのに。」
まるはそんな事もしらずに、「ひとり歩き 古酒」をストレートであおっていた。もちろん、チェイサー替わりは瓶ビールだ。
夜も更け、酒をあおり始めて5時間は経っていた。電話がなった。
NAOからの電話だ。
NAOは大学時代、クラブで知り合った黒髪の似合う韓国の女性だ。
「オッパ オディイッソヨ?カッチ ハンジャン ハルレ?」(和訳:お兄ちゃん、何処にいる?一緒に一杯する?)
午後10時半ノガミでNAOと待ち合わせた。
大学を辞めて一度もあっていなかった。NAOはあの時のままだ。
ふと、まるのほほに冷たいものがしたたった。「涙サプライズ」であった。
溜めこんでいたものが一気にあふれだしてきた。異国に一人で来たNAOにはその気持ちがすごく解った。
「ワカル、ワカルヨ。シンドカッタンダネ。ガマンシテタンダネ」
丸は半年分の丸々溜まっていた想いをNAOにぶつけた。