旅情(1955/英米合作)
監督:デビッド・リーン 出演:キャサリン・ヘプバーン、ロッサノ・ブラッツィ、イザ・ミランダ 音楽:アレッサンドロ・チコニーニ 中学生の時にテレビで観て、私が初めて泣いた映画です。 アメリカ人の独身OLジェーン(ヘプバーン)は、念願のヨーロッパ旅行の途中でヴェネチアに立ち寄る。歴史ある美しい街並みに魅了され旅を満喫するジェーンだったが、何か物足りない気持ちになっていた。 そこに現われた妻子のあるダンディなイタリア男・レナート(ブラッツィ)。いけない恋と知りつつ、ジェーンはレナートの優しさに戸惑いながら、次第に心惹かれていく・・・。 「旅情」とは何ともいいタイトルです。 まさに“大人の世界”です。 個人的には、恋愛映画の中ではNO.1の映画です。 全編ヴェネチアロケであり、一秒たりともヴェネチア以外の場面はありません。これが本当に美しいんです。屋内シーンはスタジオセットでの撮影もあったでしょうが、屋外のシーンは本当のヴェネチアを映し出しています。 初めて観たのが中学生だったので、当時は大人の男女の恋なんてよくわからず、ただ美しいヴェネチアの街を堪能するだけでしたが、しかしラストシーンだけは泣けました。人生いろいろ自分の思い通りに“してはいけない”ことがあるんだなあ、って。おそらく私の人生において、初めて泣いてしまった映画ではなかろうかと思います。 この“してはいけない”というところがミソで、もしあのままジェーンが、このゆきずりの恋にもっとのめり込んでいたらどんなことになっていたのだろうか、なんて考えてしまいます。余計なことですが。 分別のある女の決断があってこそ、あの悲しくも美しいラストの名場面があるのです。 そしてジェーンにとっても、レナートは美しい思い出の人となって、永遠に心の中に生きていくのです。 自分が大人になるに従い、その中で何度もこの映画を観返していますが、最近では主人公の男女と同年代になってしまい(実際はもう追い越してしまっています)、心の中に訴えてかけてくるものに深みが増して、ますますいい映画に思えてきました。 ジェーンとレナートの繊細な心の動き、サンマルコ広場などのヴェネチアの美しいシーンが、随所に挿入されているチコニーニの名曲の美しさと相まって、最初はラストだけが泣き所だと思っていましたが、最近では全編どこでも泣けるようになってきました。自分の人生に経験に深みが出てきたのか、それともただ単に歳をとっただけなのか・・・。どちらにしろ、年齢を重ねるということは(あくまで歳をとるのではなく)、悪いことばかりではないと思わせてくれる映画です。