活躍する女性像(69)

向井亜紀
「人の夢摘むなら根拠示して」代理出産報告書で向井亜紀さんインタビュー

産経ニュース2008.4.17 00:44

代理出産について語る向井亜紀さん=東京・品川区(撮影・大西史朗)
代理出産について語る向井亜紀さん
=東京・品川区(撮影・大西史朗)=

 日本学術会議が16日、代理出産を「原則禁止」とする一方で、限定的な試行を認める報告書を法相と厚生労働相に提出した。代理出産で子供を授かりたいと考える人にとっては厳しい内容だ。米国での代理出産の経験が今回の議論のきっかけともなったタレントの向井亜紀さんに聞いた。(神庭芳久)

  向井さんは報告書について、「自分と血のつながった赤ちゃんを抱きたいと思う人の夢を摘み取るなら、摘み取るだけの根拠をきちんと示してもらいたい」と反発する。そして「立法化に向けては当事者の声を十分に吸い上げて議論してもらい、救済する道をつくってほしい」と訴えた。

 向井さんは平成6年にプロレスラーの高田延彦さんと結婚。12年、妊娠中に子宮がんが判明し、子宮全摘出手術を受けた。

 「小さな命を失い、本当に身も心もペシャンコになった。『死にたい』『死にたい』と毎日考え、何も食べられずにやせ衰えていった。そんな時に一縷(いちる)の望みにしたのは代理出産。それを支えに生きようと思った」と振り返る。

 15年に米国での代理出産で双子を授かった。その後、日本で親子関係を認めてもらうための届けをしたが、最終的に最高裁で出生届受理は認められないとする決定が出た。今回の最終報告書も最高裁の決定に沿って、向井さんではなく「代理母」を法的な母とする内容になっている。

 「おかしいのは子の福祉を最優先すべきなのに、子供の存在に目がいっていないこと。私の場合、米国の代理母は親である権利も義務も放棄している。そういう人を親とすることがどう福祉にかなうのか。最高裁の決定にも感じたが、今回の報告書も理論の積み上げが整っていない。バランスが悪いと思う」と指摘する。

さらに、一連の経験を通じて代理出産について、周囲の理解が進む米国と、生殖補助医療に対する理解の進まない日本の状態を憂慮する。

 「私が国内で代理出産をしなかったのは、代理母が自分の実子に、大きくなっていくおなかのことについて正直に話せないから。人に隠してする治療であるうちは、逆に広く認められない方がいいのかもしれない」。その上で、「今は、ある一定の条件をクリアした人について、国主導による厳正な管理下で行う形がいいと思う。そのためにも、報告書には(正式な医療として行えるように)『一部容認』という言葉が入っていてほしかった」と語気を強めた。

 日本の夫婦の10組に1組が不妊に悩み、不妊治療を受けている人は46万人といわれる。厚労省の調査では、代理出産を容認する国民の割合は54%に達しており、議論が今後も続くのは確実だ。

 向井さんは「これから代理出産を考える人を迷わせないためにも、法的に親子関係がないと宣告された私たちのような家族だって、一つ屋根の下で楽しく暮らしていけることを証明できるよう丁寧に生きていきたい」と話している。


産経ニュース2008.3.8 03:17
【主張】代理出産 今後は法の整備が重要だ

 妻以外の女性が出産する代理出産について「法律で原則禁止とする」との日本学術会議の報告書がまとまった。「妥当な判断だ」という意見がある一方で、「規制が厳しい」「議論が足りない」といった指摘もある。

 今後は報告書をもとに問題点を明確に整理したうえで、法整備にあたることが何よりも重要である。

 最高裁もアメリカでの代理出産で双子をもうけたタレントの向井亜紀さん夫妻に対する決定にからみ、立法による速やかな対応を求めている。

 報告書では代理出産を原則禁止とする半面、身体的に妊娠が困難な人に国家の厳重な管理下で例外的に実施できるようにすることが盛り込まれた。

 向井さんの裁判や長野県の根津八紘医師による代理出産の公表で世論が高まったことに対する日本学術会議の“苦肉の策”だとの見方もあるが、子供ができず、代理出産を強く望む夫婦には朗報であろう。

 その実施方法を具体的に詰める必要がある。生まれてくる子供や代理母の身体的精神的面への影響を追跡調査し、生殖補助医療全体に対する医学的科学的データとして積み重ねていくことも大切だろう。

 報告書は営利目的の斡旋(あっせん)業者や依頼者、医師に刑事罰を科すべきだともしている。まさにその通りで、イギリスでは有償の仲介行為を法律で禁止したうえで代理出産を容認している。

 日本産科婦人科学会は(1)出産する女性に身体的精神的負担がある(2)家族関係が複雑になる(3)自然の摂理に反し社会全体が許容していない-の観点から代理出産を禁止してきた。生まれてくる子供や周囲にどう説明するのかなどの子供の福祉の問題もある。

 しかし、代理出産は一部では特殊な医療ではなく、実施されているという現実もある。根津医師は「母親が娘のために代理出産するのが問題が少なくて一番良い」と閉経した祖母が孫を産んだケースまで発表している。アメリカの一部の州では代理出産を合法化している。

 5年前、厚生労働省が罰則付きの法律で禁止するよう報告書をまとめたが、法案化は見送られた。生殖補助医療の進歩に法整備が追いついていかないところに問題がある。