がんと闘う(15)

小橋が術後5カ月語った「リングに帰る」

 不死鳥のごとく、建太は必ず戻ってくる! 
腎臓がんからの復帰を目指すノア小橋建太(39)が6日、約5カ月にわたるリハビリの全容を赤裸々に明かした。右側の腎臓を全摘出したことで、腎臓は1つになったが、そんな状態の中で細心の注意を払ったウエートトレーニングを敢行。タンパク質の摂取を厳しく管理された、食事制限も乗り越えようとしている。過酷な条件下、必ずリングに戻る-という強い意志で、小橋が苦難を克服する。(取材・構成=来田岳彦)

 不運な病にも、過酷なリハビリにも、ここまで小橋は、決して明るい表情を失わなかった。この日も道場でウエートトレーニング中心の練習で汗を流した。

 小橋「去年の12月20日の定期検診の結果が良くて、復帰を反対し続けていた主治医から初めて、前向きな言葉をもらいました。『血液も尿も検査結果が驚くほどいい。練習のレベルを上げてもいいよ』と。『先生は復帰には反対なんですよね』と聞いたら『そんなことないですよ』と答えてくれた。これまでは、ボクが復帰という言葉を出した時点で『その話はやめましょう』と言われていたのに」

 リングに上がることだけを信じてリハビリに励む小橋に、希望の光をともしてくれる言葉。その陰には、自分を厳しくコントロールできる精神力があった。

 練習は退院から2週間後の昨年8月10日に始めた。最初は1時間の水中歩行を週に3~4回。同19日からは条件付きながら週に4~5回、道場に通うことを許可された。それはトップに君臨してからも、どんな若手より練習していた小橋にとって、大きなストレスを伴うものだった。

 小橋「主治医からは『最初の定期検診で体が締まっていたら、強制入院ですよ』と言われるほど運動を制限された。その後は定期健診の結果を見ながら、段階を踏みながらやっている。ベンチプレスやトレーニング用のマシンも使う。負荷も徐々にアップしていて、今は70%ぐらいかな」

 だが、もっとつらいものがあった。食事だ。これまで小橋は、3食以外にもプロテインを補給しプロレスラーの体をつくってきた。だがプロテインどころかタンパク質の摂取も禁止され、健康に良いとされる納豆や豆腐も食べられなかった。

 小橋「タンパク質をとり過ぎると、老廃物が腎臓にたまって詰まるんですね。筋肉になるもとが全然とれないんですよ。体重も120キロから100キロぐらいまで落ちました。以前は制限していた、炭水化物や脂質しか食べられない。野菜いためや煮物が中心。専門業者のカロリー計算済みの食材の宅配で自炊したり、親類につくって送ってもらいました」

 11月の3度目の検診で、少量のタンパク質の摂取が許可された。12月にはさらに制限が緩められた。それでも肉などの動物性ではなく、大豆など植物性タンパク質をとるなど細心の注意を払う。

 小橋「主治医から許可されても、甘えることはないですね。これまで、納豆を1日1パック食べていたのを、週に3日はもう1個増やして(1日2パックにして)もいいかな、という程度。調子に乗って後悔はしたくない。段階を踏んで、一番いい形でリングに復帰したい。いいかげんなことをすると遅れてしまいますから」

 もう1度、絶対、リングに立ってみせる-。その一心で、すべてを受け入れている。容易なことではないと知りながら、前向きな気持ちは忘れない。

 小橋「ウエートトレーニングができたから復帰が近い、とかじゃない。ウエートトレーニングでできる老廃物はクリアしてます。でも、たとえば殴られたり、蹴られたりする打撲の老廃物が怖いらしいんですよ。リングで戦う上でクリアしなければならないハードルがある。まだまだこれから長いですよ。でも自己満足かもしれないけど、1日1日を積み重ねるしかない」

 そんな小橋を助けるために、行動を起こした人がいた。ひざの手術から奇跡的に復帰した際の医師2人と、医療関係者が「小橋建太を復帰させる会」を結成してくれた。プロテインどころか食事制限もきつかったころに、将来のことを考えてプロテイン会社と相談してくれた。

 小橋「その先生に言われたんです。『これまでの小橋建太をやり直そうとするならボクは協力しない。ゼロからやるというなら協力する』と」

 自分の行く末を、我が身のように考えてくれることに涙が出る思いだった。ここまで支えてくれた、すべての人に感謝の思いを伝えるには-。リングに戻ってお返ししたい、という気持ちは、さらに強くなった。

 小橋「いつ復帰するとは言えないが、1歩1歩、確実に近づいています。みんなが待ってくれている以上、戻ることが自分の生きる希望、気力につながっている。自分が帰る場所はリングしかない」

[2007年1月7日8時6分 日刊スポーツ紙面から]

鉄人・小橋健太が帰ってきた

7月に腎臓がんの手術をした小橋健太。189日ぶりにファンの前に姿を見せました。12月10日、ノア・日本武道館大会、超満員の1万6800人のファンの前にスーツ姿で登場。

場内割れんばかりの「小橋コール」、テーマ曲の「GRAND SWORD」が流れた入場では、あえて特設の花道を使わなかった。

ファンにもみくちゃにされながらゆっくりとロープをくぐる。
そして四方を見渡してから、言葉に万感の思いを込めて、こう挨拶。

『今回の病気で皆さんに大変ご心配をおかけしました。無事手術も成功し、徐々に体調もよくなっています。これから先のことは何も決まっていませんが…。必ず、このリングに…』そこで思わず言葉に詰まる。

ファンから「待ってるぞ」の掛け声が飛ぶ。

小橋はかみしめるように言った『帰ってきます』と。