トリノ五輪(1)上村愛子

【フリースタイルスキー】上村、5位に悔し涙「次の五輪も出たい」
女子モーグル決勝 2006年02月12日

決勝を終え、上位選手のモニターを見る上村愛子

愛子のスクリュ-720は世界一の美しさだ!

 トリノ五輪のフリースタイルスキー女子モーグルは11日、サウゼドルクスで決勝が行われ、上村愛子(北野建設)は24.01点の5位に終わり、メダル獲得はならなかった。

 上村は第2エア、予選に続いて得意技の3Dエア「コークスクリュー720」を見事に決め、滑り終えた段階では2位。しかし、後続の予選上位者たちがターンやスピードで上回った。「自分の滑りには満足している」と話した上村は「やっぱりメダルはもらえないのかな」と悔し涙を流した。

 3大会連続メダルを狙った里谷多英(フジテレビ)も15位で目を潤ませた。第2エアのフロントフリップの着地でスキーが乱れたのが響いた。初出場の伊藤みき(近江兄弟社高)は、スタート直後からミスが続き20位に終わった。畑中みゆき(佐川急便)は予選落ち。

 優勝は、前評判どおりの強さを決勝でも見せたジェニファー・ハイル(カナダ)。2位には、3大会連続のメダル獲得となるカーリ・トロー(ノルウェー)が入った。そして3位にはサンドラ・ラウラ(フランス)が、持ち前のスピードを生かして飛び込んだ。以下は上村のコメント。

■上村愛子「そろそろメダルもらっても……」

 点が出ないな、という感じですね。自分にちょこちょこミスがあったということでしょう。コーク(スクリュー)の出来は満足です。この滑りができたから、本当に「点出てくれー」と思っていました。やっぱりメダルはもらえないのかな。もうそろそろ、もらってもいいんだけどなー。

 スタートのときも、すごく気持ち良くて自分らしい滑りができました。でも、ちょっとしたミスがあるのかな。(次の五輪も)出られるのなら絶対に出たい。まだまだ滑りたいです。

■里谷多英「結果は今の実力です」

 自分の実力です。まあ、仕方ないです。エアもちょっと失敗したし。結果は今の実力です。エアの着地は明らかに失敗でした。なぜか分からないが、すべてが保守的な滑りでした。(痛み止めの)注射を打った影響はないです。この1年いろいろあったから頑張ったのではなく、スキーがやりたかったから頑張りました。こういう結果になったのは悔しい。

■伊藤みき「バンクーバーで1番に」

 決勝に出られて良かったです。でも、うまく滑れなくて悔しい。4年後は自分も喜んでみんなも喜ぶような滑りがしたいです。もっとうまくなって、バンクーバー五輪で一番になりたいです。

■畑中みゆき「雪道は気をつけて」

 やられちゃいました。丁寧に滑っていたら、つるっと(滑って)行って。雪道は気をつけようという感じですね。そしてランディングの後(佐川急便所属だけに)、お客様の荷物を落とした感じです。これで引退です。ハンドボール出身という異色の存在で、やってきましたが、今までやってきたことは無駄ではありませんでした。

■高野弥寸志コーチ「立派な5番だった」

 (上村は)立派な5番でした。決勝は攻めていた。第2エアのランディングで少し前に流されました。ひざが痛くても頑張って、ここまで引っ張ってくれました。ひざの調子も少しずつ良くなってきたんですが・・・・・・。持てる力は出してくれました。今日はタイム(がポイント)でした。28秒台では遅かった。3Dは入るスピードが微妙なんです。どうしても合わせなくてはいけない。(課題は)スキルとか技術で足りない物はない。勝ち方です。そういう物を1回つかんだら、どんどん表彰台に上る選手になると思います。

★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

上村、悔し涙の先にあるもの

日本人第1号の期待

 フリースタイルスキーの会場となったサウゼドルクスは、日本の報道陣であふれた――日本人メダル第1号の期待を上村愛子(北野建設)に託して。記者が選手と接するミックスゾーンは、スピードスケートやフィギュアスケートの会場よりも狭く、40平方メートルほど。コースを見上げる真正面の位置にあるためカメラマンも押し寄せ、決勝が始まると日本人メディアですし詰め状態となった。

 上村は滑り終わった段階で2位となり、しばらく表彰台圏内にいた。メダルへの夢を見たが、最終的には5位。最終滑走のジェニファー・ハイル(カナダ)が優勝を決め、3位までの選手がカメラマンの撮影の要求に応える中、報道陣の前に歩み寄ってきた。

 ウエアのフードを頭から覆った上村の目は潤んでいた。自らの声を聞こうと押し寄せてくる記者たちに驚いた様子を見せると、記者に背を向けた。5秒……10秒……15秒。振り返ると、先ほどよりは幾分、落ち着いた表情に変わっていた。
 整理をつけようとしていたのだろう。メダルを求め、悩み苦しみ抜いた4年間の気持ちに。 
勝負を分けた28秒 

 6位に終わったソルトレークシティー五輪後、フリップ(宙返り)やフルツイスト(1回ひねり)の全面解禁によってスランプに陥った。考え抜いた末、女子では誰も挑戦していなかった3D(縦回転と横回転を交えたエア)に取り組んだ。そこで生み出されたのが、体を横に倒して空中で回転する「コークスクリュー720」。今では「3Dをやっている人はいるけど、ちゃんとできるのは自分だけ」とまで言える技になった。

 今シーズンは左ひざとの痛みとも戦った。高野弥寸志コーチは「常に低周波治療器を当てているような状態だったのに『痛い』と一言も言わずに頑張ってくれた」と賛辞を送る。

 この日は予選、決勝とも「コークスクリュー720」が成功。「この滑りができたから、本当に『点出てくれー』と思っていました。そろそろメダルもらってもいいんだけどなーって」(上村)

 予選でのエアの得点は、優勝したハイルに続く5.89点(決勝でも3番手の5.75点)。しかし、この日の勝敗を左右したのはタイムだった。「28秒台では遅かった。3Dは入るスピードが微妙なんです。どうしても合わせなくてはいけない」(高野コーチ)。試合によって変わるモーグルの勝負のあやを、上村は味方にすることができなかった。

「(次の五輪も)出られるのなら絶対に出たい。まだまだ滑りたい」(上村)
 防ぎようがないものであるが、ピークを作るべき五輪を故障した状態で迎えたことは課題として残る。
 初出場の長野五輪から7、6、5位とステップアップする上村。4年後は二つや三つの「飛び級」があってもいい。

(スポーツナビ 向吉三郎) =2/12 YAHoo!Sports=

 


練習後、報道陣の質問に答える上村愛子

決勝5位になった上村愛子の。第2エア

豪快なエアーを決める上村愛子

第2エアで大技を決めた上村愛子の合成写真

決勝でゴールしガッツポーズする上村愛子

友人や母の圭子さんから手作りの「金メダル」を手渡され涙ぐむ上村愛子選手