裁判員制度に対する疑問(4)ネグレクトの危惧 | 回廊を行く――重複障害者の生活と意見

裁判員制度に対する疑問(4)ネグレクトの危惧

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5月21日から裁判員制度が始まります。裁判員法中の障害者に係わる欠格条項で「裁判員となることができない」とするものは、第14条3項の「心身の故障のため裁判員の職務の遂行に著しい支障がある者」であり、障害をもつというだけでは裁判員から除外されることはないと最高裁も再三言明しています。

裁判員法の是非はここでは触れませんが、この法律は経済法や行政法とは違って目先の事態の調整を目的とするものではなく、理念的なものであると思われます。従って適用は平等を旨とすべきであり、障害者に対しても可能な配慮を尽くした上で施行されるべきもので、参加の意思のある者を除外するような措置は取るべきでないのは言うまでもありません。(一方で辞退を望む者には辞退を認めるべきであると思いますが、それは制度自体の本質にかかわることであるのでここでは別の問題とします)。

注目すべきは最高裁事務総局刑事局付の判事である小野寺明氏が『ノーマライゼーション』誌08年12月号の特集「障害者と裁判員制度の課題」の中で、「あくまで個別の判断ですが、障害者の方が障害のあることを理由に裁判員の辞退の申し立てをされた場合は、基本的に事態を認めることになると考えています。」と述べていることです。これを見ると個々の裁判所で裁判員候補から裁判員を選任する過程での裁判長の考え方によっては、障害者の多くが辞退という方向にもっていかれる危惧を感じないわけにはいきません。

私は中途失聴の聴覚障害者であるので、その立場から知りえた情報によりますと、まずくじによって選ばれた裁判員候補は、疑問があればそのために設立されたコールセンター に問い合わせることが可能なのですが、その手段が電話のみであり、聴覚障害者には多くの場合問合せの道をふさがれています。また某県で候補とされた聴覚障害者が連絡のためのファクスの番号を地裁に尋ねたところ、知らせるのを拒否されたというケースもあるということです。何らかの手段で連絡を可能にする余地はまだ実施前にもあるはずですが、これらについて最高裁は次年度からの検討課題であるとしています。

また裁判の本番では「聴覚障害者には手話通訳と要約筆記で対応する」ということが最高裁の見解として繰り返されています。手話通訳による模擬裁判は何回も行われ、ある程度の検討も行われてマニュアルのようなものが作られているということです。しかし要約筆記等の筆記による模擬裁判は行われていません。当初から予定していなかったふしもあります。また補聴器を併用する聴覚障害者は多いのですが、その有効利用のための磁気ループなどの補聴システムの配置については、裁判所側は知識を持たかったようです。手話を十分に使用できるのは聴覚障害者の2割程度だと言われていますが、この状態ではその他の8割はネグレクトされているというべきでしょう。

検察審査会法というものがあり、やはりくじで選ばれるのですが、以前は視覚障害および聴覚障害を絶対的欠格としていました。2000年の改正でその規定は削除されましたが、これは医師法等の欠格条項の緩和に先立つものであり、裁判員法の内容を審議した司法制度改革審議会でもしばしば引用されています。ところが2006年12月11日の読売新聞 によれば、2000年4月からその時点までに聴覚障害者で審査員に選ばれた聴覚障害者は全国で合計9人ということです。最高裁事務総局刑事局の検察審査会係に封書を送って確認したところ、この期間に審査員として9人、補充員として4人が選ばれ、審査員の9人のうち手話を利用したのが6名、筆記を利用したのが3名ということでした。

当時検察審査会は全国に約200ヶ所。審査員は任期半年の者が各11名、すなわち各審査会ごとに22名で、1年あたりの全国合計は約4400名。これに昨年の全国有権者数と厚生労働省の障害者統計 を勘案しますと、年間の聴覚障害者である審査員数は14名前後となります。くじで選ばれた者としますと、法改正の2000年以降7年間の合計として9名というのはいかにも過少です。

この過少である理由と、手話を使用した者の比率が聴覚障害者の現実と齟齬がある理由についてさらに検察審査会係に問い合わせたのですが、理由は不明ということでした。何らかの理由がないとは思われませんが。裁判員に関しても要約筆記者の数そのものが少ないということもあり、コミュニケーション能力の欠損を言い立てて陰に陽に辞退を勧めたというような事態が考えられます。下手をすると隠れた欠格条項が誕生することになりかねません。このような事態への防止装置の一つとして、毎年裁判員となった障害者の人数を公表するということが考えられます。上記のように検察審議会については類似の統計があるので、裁判員制度についてもできない理由はないでしょう。なお第36条に「理由を示さない不選任の請求」というのがあり、検察側弁護側それぞれ4人まで理由を示さず不選任の決定を請求できるのですが、この制度で不選任となった者にも障害があることが判明しておれば、上記の人数に加えるべきでしょう。

裁判員法ではさまざまな場面で守秘義務が存在し、罰則も規定されていますが、最高裁からの情報として、「裁判員候補者には守秘義務はないので、裁判員候補者が選任手続において裁判長からどのような質問をされたかということを当該裁判員候補者自身の判断で公表することは、守秘義務違反の問題にはならない」ということです。障害者団体自身もこのことを明らかにして、候補者となった障害者から具体的情報を集める方針を立てるべきであると思います。新しい法や制度が作られるたびに、欠格条項に類したものが生まれるのは、もういい加減にしてほしいと思います。当初から障害当事者の意見を十分に聞くということをすれば、それは防げるはずです。

☆不平等 かかえて裁判 発足か


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