裁判員制度への疑問-2-移動と宿泊への配慮 | 回廊を行く――重複障害者の生活と意見

裁判員制度への疑問-2-移動と宿泊への配慮

回廊を行く――重複障害者の生活と意見-裁判員
裁判官3人+裁判員6人

今年の5月に裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(以下裁判員法) が実施されるということで、それを既定の事実とするマスコミは批判的な意見はあまり取り上げません。秋からずっと裁判員制度と聴覚障害者について個人的に啓発活動をして、弁護士や障害者団体や聴覚障害者支援者、あるいは制度に意見を言う立場の方々と情報の交換を続けていて手一杯だったのですが、ここでブログに戻って12月に書いた「裁判員制度への疑問(1)コールセンターが使えない 」を続けたいと思います。

裁判員法には「心身の故障のため裁判員の職務の遂行に著しい支障がある者」と第14条第3項の欠格事由がありますが、原則として障害をもつというだけでは裁判員から除外されることはないのが原則です。つまり裁判所は障害のある者でも裁判員の職務を行うことができるように配慮し、必要十分な便宜を提供すべきなのですが、裁判所というか法曹一般に障害者に対する認識が乏しく、任せておいたのでは結果的に障害者を除外することになりかねないのが実情です。コールセンターの例では裁判員候補にされた聴覚障害者が、裁判所に問い合わせたいことがあっても電話が使えないので方法がないというものでしたが、以下の例を見ても、裁判所も報道もすっかり障害者のことを失念しているようです。

少し古いのですが昨年11月23日の毎日新聞の記事 に、「
裁判員制度を実施する全国60地裁・支部のうち約8割の49カ所で、宿泊が必要な裁判員が生まれる可能性の高いことが、毎日新聞のアンケートで分かった。〔中略〕最高裁は 裁判員裁判の7割が3日以内で終わるとしているが、多くの地域で想定以上に拘束される裁判員が出そうだ。」そして「宿泊料は実費でなく、地域によって7800円か8700円が支払われる。裁判所への移動は公共交通機関の利用が原則で、鉄道、船、飛行機は利用分の運賃、バスやタクシーの場合は1キロ当たり37円が支給される。」とあります。締めくくりは「前日から泊まる必要があると、裁判が3日で終わっても、拘束は事実上4日間になる。最高裁は『辞退を認めるかは各裁判所の判断。ただ、管内に居住する場合、法令は遠隔地というだけでは辞退理由として認めていない』としているので、この記事の主眼は裁判員は言われている3日間以上に拘束される可能性があるということのようです。

しかし裁判員が障害者の場合はどうでしょうか? もちろん障害の種類や程度にもよりますが、まず考えるのは移動に介助者が必要な場合で、二人目の旅費や宿泊費はどうなるのでしょうか? また最寄の鉄道駅に到着したとして、その先は公共交通機関が存在しても設備如何では利用できないこともあります。こういう場合にタクシー代が支給されるのでしょうか。さらには、車いす利用者などの場合、バリアフリーの設備のないところでは宿泊が困難です。加えて設備のあるところが裁判所の近隣にない場合も想像されます。裁判所はその辺の情報も把握しておく義務があるわけです。このような宿泊施設の場合、公設のところでなければ規定の宿泊料で不足はないかも考えてみるべき事項でしょう。

最後にもっとも看過されそうなことですが、聴覚障害者の場合は一人で移動するのは可能ですが、いざ宿泊となった場合、聴覚障害者のみでは災害時に危険だと断わられることが多いのです。バリアフリー施設の設置が不十分であるからですが、この事情を裁判所に話しても果たして受け入れられるか? どういう対応を示すでしょうか? だったらと辞退を勧められることはないでしょうか? ここまで考えると、一般の国民を洩れなく司法に参加させるということは、法曹関係の人々が考える以上に大変なことです。経済法や行政法であれば眼前の不合理を正すために、とりあえずの立法を行なうということも理解できますが、裁判員法はいわば理念法であり、国民の司法参加という「大義」の前でも、平等を軽視した形では実施すべきでないと思われます。

☆罰金は あるけど配慮 どこにある


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