言葉の力--大統領選と総裁選
米大統領選挙(1960)
生きているうちにアメリカで黒人の大統領が選ばれるとは思っていませんでした。女性大統領ならありうると考えていた人は多いかもしれませんが。それが、女性や黒人の副大統領もまだなのにいきなり大統領とは。勢いとはこういうものでしょう。2000年の選挙で総得票数では負けたブッシュ氏が、必ずしも明朗なプロセスではなく大統領になったのは、考えれば今回のための遠大な伏線だったと言えるでしょう。現任の大統領が共和党のブッシュ氏、外交でも経済でも世界を破壊したブッシュ氏でなければ、オバマ氏は大統領にまでなることはなかったでしょうから。
それにしてもアメリカの大統領選の息の長いこと。馬鹿騒ぎと感じることがないでもありませんでしたが、その間にオバマ氏は着々と風格を身につけていったようです。なるほど、アメリカの大統領選挙のやり方には、こういう効果もあるのだと感じましたが、さて日本ならと思うと、これは気がめいります。麻生首相の場合は、外で演説らしきことをすればするほど、風格を落としていったのが現実だからです。いやそれ以前に、日本では総裁選などの選挙に立候補する過程からして、すでに格調がない。出たい意志はあっても、勝算を計算し、右を見て左を見て、やっと決定するのは立候補届出の直前ということが少なくなく、選挙戦を通じて成長していくなどという余地ははじめからありません。
もっともオバマ氏に風格を感じるのは、その雄弁にもよります。私のことですから聞くのではなく活字になったものを読むのですが、Well, I say to them tonight, there is not a liberal America and a conservative America -- there is the United States of America. There is not a Black America and a White America and Latino America and Asian America -- there’s the United States of America. という有名な一節でとくに感じるのは、英語にはスピーチをする際に用いる言葉のスタイルというか、パターンがあるのではないかということです。上の場合次々とたたみかける様に言葉が続き、その中からリズムが出てきて、自然に暗誦できてしまうようです。その名残は日本語に訳しても残っているくらいです。
ここで思い出すのはケネディ大統領です。1960年に選ばれたケネディ自身も就任演説におけるAnd so, my fellow Americans: ask not what your country can do for you -- ask what you can do for your country. の一句が有名ですが、63年に暗殺された時の、英字新聞で見たその葬儀の記事の一節を今でも思い出します。Among the mourners were Anastas Mikoyan, Soviet Premier Nikita Khrushchev's right hand man, Europeans, Asians, Arabs and Jews. 内容はかけ離れていますが、何だか似通った印象を受けます。それとも私だけがそう思うので、羅列という点で似ているにすぎないのかもしれませんが。
しかしいずれにせよ英語にはレトリックというものがあり、多くのスタイルが共有財産となっていて、話す者に雄弁と説得力を与えているのは事実だと思います。あまり高級ではない読み物でもレトリックを感じさせる部分があったりするくらいです。ひるがえって日本はというと、巧言令色鮮なし仁という言葉があるせいか、雄弁で人を説得したというような話はあまり聞きません。政治家の一部に早稲田の雄弁会出身がいるそうですが、彼らがとくに雄弁家であるとか、あるいは説得力があるとかいうことは聞きません。思うに雄弁会流の雄弁というのは、内容は二の次で熱弁をふるうというものが主なのではないでしょうか。余談ですが、もし学習院に雄弁会があったとすれば、まさかと思いますが、人を見下ろした話し方が伝統なのかなと考えてしまうことがあります。
政治に雄弁が不可欠とは思いませんが、キャッチフレーズめいたものとは異なった内容のある言葉によって、人を説得するということが稀なのは日本にとって不幸なことです。それどころか小泉首相以来状況はさらに悪化して、政治家の言葉で重要なのはその場で受けるか受けないかであるという、お笑いタレント並の意識は首相が率先して広めたかのようです。アメリカではレトリックに支えられた雄弁が、例えつかの間であろうとも社会を明るくしているのに対し、日本では権力者たちが言葉の軽さを競い、最近はそれに朝三暮四の傾向も加わってきたのをみると、やはりアメリカは羨ましいと感じてしまします。
☆ないよりは やっぱりほしい レトリック
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