メイキング・オブ・邦画字幕--『バベル』をめぐって | 回廊を行く――重複障害者の生活と意見

メイキング・オブ・邦画字幕--『バベル』をめぐって

映画館映画館

1月30日の深夜に『日本映画が見たい… ~忘れられた「聞こえない人達」の存在~ 』という番組がフジテレビで放送されました。『バベル 』というアメリカで製作された映画には、「言葉が通じない」ことを表現するためか、多くの日本のろう者が出演しているのですが、出来上がった作品は洋画だから日本語字幕がつくのに、日本人が出演して日本語を話す部分には字幕がない。これでは出演したろう者たちにストーリーがわかりません。ろう者をコーディネイトした女性がこれをおかしいと思って運動し、日本語部分も全面的に字幕化することになった顛末をまとめたものですが、その間に聴覚障害者が社会においてどのような位置にあるかなども織り込まれていて、啓発の意味でも優れた番組でした。

それにしてもろう者が大勢出演した映画を、ろう者が楽しめないというのは実に説得的な問題提起です。また聴覚障害の状況というものは健聴者に説明しても表面的にしか納得してもらえないことが多いので、聴覚障害者の実情を織り込んだこの番組の展開はとてもよかったと思います。聴覚障害者の社会でおかれた状況にも、あの番組で初めて気のついた人が多いのではないでしょうか。

ただやはりひっかかったところはあります。まず番組自体に字幕が付いていましたが、せっかくの字が小さすぎました。背景によってはよほど画面に近づかないと読みにくいこともありました。テレビ局ではなく番組の制作者があらかじめ入れた字幕でしたが、聞くところによるとデジタルのテレビで見るとちょうどよいようにしてあったそうです。私のところのようにアナログで見るところもまだ多いわけで、過渡期にはいろいろ技術的にも問題はあるものです。

番組中では「ろう」「ろう者」で一貫していましたが、全国難聴者中途失聴者連合(全難聴)の関係者も一人ならず出てきていましたから、「聴覚障害者」の方が内容にふさわしいと思われました。日本での公開の前にプレミアショーが行なわれ、監督や出演者が挨拶をする場面もありました。大勢来た聴覚障害者のために、運動を起こした女性が手話通訳をつとめていたのですが、手話が得手でない中途失聴者などのための要約筆記者が画面には映らなかったのが残念でした。せっかくの機会ですから、パソコンによる要約筆記を舞台の端なりでスクリーンに表示して、世間の認識を得るようにすればよかったと思います。

以下蛇足ですが、『バベル』のDVDは出ていますが、もちろん字幕は全体についていると思います。劇場用とは別ですから、安心していたら日本語部分には・・ということになっていないかと、ちょっと心配しました。と言うのはDVDはビデオと違って字幕も入れやすいし、ON-OFFの選択もできると聞いていましたので、テレビ放送の時に字幕入りだったのはDVDになっても当然ついていると思ってたら、そうでもなかったという経験があったからです。CMの有無などで字幕を入れるタイミングが違い、字幕制作の手間がまたかかるからということですが、それこそIT技術で何とかなりそうなものです。一度使った字幕データはあるはずで、これを情報資源とみなして、「モッタイナイ」でアピールするのも効果的ではないかと思いました。

それと、前から思っていたのですが、聴覚障害者は日本映画の古典的な作品に、一部を除いては接していません。新作を民放が放送するときは字幕付がほとんどですが、古典の場合はもっぱらNHKで、これが字幕をつけていません。NHKには質問しても回答がないことが多いので、ツテをたどって聞いてみたら要するに字幕付加用の予算の問題で、優先順位に入っていないということです。黒沢明作品シリーズなどというのを年末年始にやっているのを見ると悔しいのですが、ぜひNHKには考えを改めてほしいと思います。

この番組を見ていて気づいたことは、字幕をつける運動をされた方々の主力は手話ユーザーだったらしいことです。これはちょっと意外でした。というのは著作権法が2000年に改正され、字幕関係にも少しばかり前進があったのですが、その時に力を入れていたのは全難聴で、ろうの方はあまり関心がないようだと誰かが言っており、私も当時通っていた手話クラブでも似たような印象を持っていたからです。当時すでに聴覚障害者はほとんど携帯電話でメールをしていましたが、そのことと、テレビで字幕番組が急増したこととで、手話ユーザーも文字による情報保障に抵抗感が薄れたということでしょうか? とすれば、いささか大げさですが、現在我々は歴史的な時期に遭遇しているのかもしれません。

実はこの映画に関して、ろう者の女性を健聴者の女優が演じることは妥当かなどの問題も論じられていますが、ここではそういう論議 があるというに留めておきます。なお、このような地味な番組を深夜とは言え放送されたフジテレビに敬意を表します。聴覚障害者を採用し、ウェブサイトには「お台場発字幕情報 」というページを設けているだけのことはあります。

☆一斉に 笑える映画は 字幕あり


人気blogランキングへ
↑↑<クリックお願いします>↑↑