投票以前のこと | 回廊を行く――重複障害者の生活と意見

投票以前のこと

 選挙と障害者と言えばまず思い浮かぶのは、障害者が自らの利益を主張する議員を選ぶことでしょう。障害者本人が立候補して議員になることもあり、八代英太氏が代表的ですが、ここでは選ぶ側の障害者について考えます。

 『障害者白書 平成16年版』の第1編・第5章・第2節の3に「情報提供の充実」という項目があり、その中で「国政選挙における配慮」として次のように述べられています。
 国政選挙においては,点字による「候補者名簿及び名簿届出政党等名簿」の投票所等への備付け並びに「選挙のお知らせ」の配布,投票所における車いす用スロープの設置等により,障害のある人が投票を行うために必要な配慮を行っている。なお,平成7年からは,参議院比例代表選出議員選挙における政見放送に手話通訳を導入したほか,平成8年の衆議院小選挙区選出議員選挙からは,政見放送として政党が作成したビデオを放送することができるようになったことに伴い,政党の判断により手話通訳をつけることが可能となっている。

 実際にこのような配慮が行われているかと言うと、投票所にスロープを要求したら、「不在者投票でやってくれると、市役所本庁が投票所だから、そこならスロープもある」と言われたとか、投票所に至るまでに長い石段があったとか、いろいろな話を聞きます。手話通訳について触れていますが、参議院比例区の場合を除いて義務化されておらず、衆議院小選挙区の場合は候補者によって手話・字幕・テロップのいずれか、あるいはその組み合わせが選ばれ、そのどれもないということも少なくありません。参議院の地方区と衆議院の比例区の場合は、手話通訳も字幕も認められていません。念のために書いておきますが、聴覚障害者と言っても手話を使いこなすのは2割程度で、文字によって情報を保障する必要は大きいのです。一方、視覚障害者が選挙広報に接しにくいのは自明ですが、その点訳やテープによる音声化についてはボランティア的な努力はあるのですが、選挙管理委員会からのいろいろ規制があり、すべての視覚障害者が点字や音声のものを入手できるわけではありません。
 また投票所まで行けないような人のためには郵便投票の制度があるのですが、その資格が厳しく、たとえばいわゆる寝たきりの患者には郵便投票ができません。

 このように障害者は投票以前にも情報の入手が困難であり、また物理的にも投票の場から遠ざけられがちです。しかし主務官庁の総務省が公選法の細かい規則に拘泥するせいもあって前進はあまり見られません。話は違うようですが、洋上投票というものがあり、仕事で船に乗っている人々がファクシミリによって投票するというものですが、秘密の保持のために特殊な仕掛けが必要で、そのための器具が1台200万、合計で約1億円。前回衆院選(03年11月)で48隻約300人が投票したので、単純計算すると、1票の費用は約36万円になるとのことです。参政権は神聖ですから費用の多寡を言うことはできませんが、障害者の参政権を守るためにも、予算と使い制度を改善して欲しいものだと改めて思います。