ILUST:AZUSA TSUBOTA
 
 
今年の夏から秋にかけて、アニメ映画「君の名は。」が大ヒットしました。
読者の皆さんの中にも、この映画を見て感動した人が多いと思いますが、それだけで終わらせてはダメです。
この映画は、若い人たちがこれからどう頑張ったら将来成功出来るかの指針となるべき教訓を示してくれているのです。
 
私は、この映画の成功の理由は二つあると思っています。
一つは、監督の新海誠氏が、自分の強みである部分を長年かけて徹底的に磨いたことです。
実は私は新海監督をデビュー当時から知っているのですが、新海監督の強みは独自の世界観と背景の美しさだと思っています。
一方、正直言って新海監督が描く登場人物はそこまで魅力的ではありませんでした。
 
大ヒットした「君の名は。」の世界観や背景は、15年前のデビュー作の「ほしのこえ」とほとんど変わりません。
一方、「君の名は。」の主人公などの登場人物は、元ジブリの凄腕のアニメーターが描いているので、当然ながら新海監督の初期の作品と比べるとすごく魅力的になっています。
 
新海監督はすごく賢い人なので、おそらく自分の強みがどこにあるかを分かっていて、それを15年という長い間をかけて磨き込んでワンパターンに拘ると同時に、強みでない部分については外部の力をどんどん借りたのでしょう。
 
ワンパターンというと聞こえが悪いですが、実はこれはすごく大事なことです。
ビジネスの世界でも、企業が競争に勝つには、他の企業にない自分だけの強みを徹底的に強化することが不可欠だからです。
プロレスで、スター選手が常に最後は自分の必殺技で勝つのもまったく同じです。
 
この映画のもう一つの強みは、おそらく新海監督が世の中の変化を敏感に察知して、それに対応したことだと思います。
 
実は、この映画はアニメ業界からは評判があまり良くありません。
あるアニメ業界の大御所は「これは映画ではなくて長編のミュージッククリップだ」と酷評していました。
でも、この評価こそが逆に、新海監督がいかに世の変化を敏感に掴んで、それを踏まえた作品作りをしたかを物語っています。
 
ちょっと前までは映画というと、作品に集中してじっくりと観て自分なりに思索を巡らすという、読書に近いものでした。
でも、最近はスマホが映像を観る手段の主流となり、若い人たちの映像の見方も、気軽に流し見して気持ち良く感じるというカジュアルなものに変化しています。
 
新海監督は、そうした映像の見方の変化を理解していたからこそ、ミュージッククリップのように気軽に見られる作品を作ったのではないでしょうか。
このように古臭いしきたりを無視して世の中の変化を踏まえて果敢に新しい要素を取り入れることこそが、企業や人の成功に不可欠なイノベーションなのです。
 
読者の皆さんも、ダンスでも勉強でも何でも将来成功したいなら、自分の強みを徹底的に強化するとともに、時代の変化を積極的に取り入れる柔軟性も意識して身につけるようにしましょう。
 
 
 
ライター:岸 博幸
1962年生まれ。一橋大学経済学部卒業。
通産省に入省した後に経済財政政策担当・郵政民営化担当大臣秘書官、総務大臣秘書官などを歴任し、現在は、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授であり、平成22年よりエイベックス・マーケティング株式会社(現エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ株式会社)取締役/エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社の顧問を務める。日本のIT政策の第一線で活躍し、政府が目指す「知的財産立国」の実現に向け、研究開発や人材育成など幅広く活躍している。