東京江東区23歳の女性不明事件に想う 3
その5 容疑者の絞り込み
■捜査開始から2か月以上経った時の捜査会議での、捜査員が発した言葉から捜査は急展開しだした。【失踪した女性の部屋の2軒隣に住んでいる男性ですが…】その男性は妻と別居しており女性が失踪した事件当日、自分の車で実家のある東北まで帰り、24時間以内で帰ってきている事が判明した。また、妻との別居理由は妻への性的暴力が原因であることも判明した。
■その男性の周辺の捜査が開始された。【警察です。女性の失踪事件の件で○○さんの事をお聞きしたいんですが…】このような聞き込みでは直ぐにばれてしまう。この時は探偵社・興信所と同じ手法…警察ではない他の者になりきって容疑者の周辺を洗い出していった。
■その男性は、酒好きで女好きである。よく知人と風俗に通っている。事件当日に実家方面には行ったが実家には顔を出していない。
■その男性は、事件2日後に直接刑事が聞き込みを行ったがその際、部屋から線香の匂いがしていた。また、男性はサングラスをしておりよく見ると右目に怪我を負っている事が判った。もしかして女性と争ってその時に怪我をしたんでは?捜査本部がにわかに活気だし動き出した。
その6 容疑者の尾行張込
■【レンタカーを5台用意してくれ。捜査車両は絶対に使うな。】容疑者の尾行張込が始まった。容疑者がマンションから出て勤務先で働いている状況、知人と居酒屋やスナック等で飲酒している状況、帰宅して就寝するまで張り込みは続いた。
■尾行張込17日目に焼肉店で知人と一緒に飲食している容疑者の言葉を同じ焼肉店に潜入している捜査員が聞いた。【わし、警察につけられてる。】
■普通、何もやましい事がない人が【警察につけられている】という言葉は発しない。【なんか不審者につけられている】ならまだしも【警察につけられている】とは絶対に言わないし、また刑事だと判る人相や服装をしていない刑事の中でも尾行 張込をプロとする選り優りの捜査員を使って尾行張込をしているのに判る筈がない。(※JSD日本総合探偵社はその選り優りの捜査員が調査部長であり、尾行張込を他の調査員に伝授しているが)
■尾行張込以外の聞き込みや資料からも男性の容疑は益々色濃くなってきた。
■捜査会議で【相手はかなり追い込まれ焦ってきている。明後日午前中、男性を呼び出す。男性宅、使用車両のガサ切符(捜索差押の事)を取ってくれ。捜索班は明日昼1時に出発、明後日午前中までに東北(女性が埋葬されているであろう場所) に到着する事。私を含め捜査員は『事件が解決方向に向かう』という希望と『最悪の結果が出る』という複雑な気持ちで東北に向かった。
その7 容疑者取調
■午前7時、捜査員数名が男性宅を訪れた。。【死体が発見されない限り大丈夫だ。】と思っていたのだろうか、男性は悪びれる様子もなく…ただ素直に警察署までの同行に応じた。
■任意(自由に警察署から出ていけるまだ逮捕していない状態)の取調が始まった。のらりくらり話をするのみであった。
■警察署内で男性の取調が始まると同時に女性が埋葬されているであろう山林を捜査員が捜査車両で走り、そして写真を撮っている。
■消息不明となった女性の妹の就職先が先日決まった。同行していた女性刑事にも何とも言えない『小さな幸せ』を感じていた。こういった究極の状態で知り合った人達との人間関係は仕事や趣味等で知り合った人間関係とは異なり、家族血縁関係位、強い絆でつながれる。
■男性の取調が始まって昼が過ぎようとしていた。しかし男性からの証言は事件当日の事は【実家に帰ったのは事実、女性とは廊下で挨拶する程度】と相変わらずの返答であった。警察署会議室にある捜査本部では未だに自白が得られない事に苛立ちと焦りを感じていた。
その8 自白
■男性の取調をしている刑事が1枚の写真を男性に見せながら独り言の様に話し出した。数年前に殺人事件を担当した時の被害者(遺族)とその犯人の話しであった。被害者側の遺族、これまで普通に暮らし平凡であった幸せから突然変わってしまっ た環境、そしてその環境を受け止めなければならない遺族、その被害者が生きていればどんな将来が待っていたのか…。決定的な証拠は突き付けられていないものの、事件当日に東北の実家付近には行ったものの実家には立ち寄っていない事、サングラスをしていた右目は傷を負っており病院で治療を受けている事、その 治療は外部からの攻撃でなければ付かない(眼つぶし)事等、窮地に陥ってきている男性に対して『心の痛み』による人間の良心に訴えかけた刑事……。昼過 ぎ、ついに男が自白した。取調室に置かれたボールペンを手にとり白紙に女性を埋めた場所を書き出した。
■男性の自白は直ぐに捜査本部と北陸の山中にて待機している捜査員に伝えられた。
■消息不明となった女性の妹や両親には今日、容疑者の男性を任意同行したこと。男性が事件を自白したことはまだ伝えられていない…しかし、女性刑事は今日には事件が解決方向に向かうことは判っていたが…何とも言えない心境であった。
元県警刑事のプロ集団
JSD日本総合探偵社 代表取締役 大久保秀幸
解決の参考になります。