インクルーシブな大学を創っていくプロセスは一つではないし、各大学や地域の諸条件の下で、可能な形ができあがっていくのだと思います。

 ただ、一つ共通して重要な要素だと思われるのは、そのプロセスに学生自身の視点が含まれ、学生が主体的に創り上げていく部分があるかどうかという点です。これは、先進的に取り組んでいる大学や地域のケースが指し示すことでもあります。

 

 以下は、熊本市にあるいくつかの大学の取り組みです。

 

1 九州ルーテル学院大学障がい学生サポートルーム/ ”サポーターSHIP-S (シップス)”

 「障害のある学生の学生生活すべての相談窓口」として、2012年度にその前身となる部署が開設された。

 2020年度には、大学公認の学生ボランティアサークル ”サポーターSHIP-S (シップス)” が設けられ、学生主体の活動や、後述するような、熊本市内の他大学のサポーターサークルとの交流もおこなっている。

 

 

 ”サポーターSHIP-S (シップス)” は、入学式においてパソコンテイクによる情報保障もおこなっています。

 

 なお、同大では、2015年度より地域のろう者を講師として手話を学ぶ「手話サロン」が毎週開かれており、現在は文化部の一つとして活動しています。

 

 

2 熊本大学学生支援室/ ”熊本大学学生サポートサークル”

 熊本大学には学生支援室があり、学生相談室、保健センターと連携しながら、学生生活を支える体制が整えられている。

 ”熊本大学学生サポートサークル” は、大学公認のサポートサークルであり、活動場所の確保や、ノートテイクや手話の学習、バリアフリーマップの作成といった活動に対する大学からのバックアップがあるそうです。

  • 熊本大学学生支援室のHP
  • 熊本大学学生サポートサークルの紹介

 


3 熊本学園大学インクルーシブ学生支援センター/ 学生サポーター

 同大では、2016年度インクルーシブ学生支援センターが開設されました。センターは「しょうがい学生支援室、なんでも相談室、保健室を含み、しょうがいのある学生等の修学支援、学生相談、学生の保健管理に関する専門的業務」をそれぞれおこなっているそうです。

  • インクルーシブ学生支援センター
  • 学生サポーター

 

 

4 SUN-Kuma(Support University Network Kumamoto)

 熊本市内の大学の障害学生支援担当部署のスタッフ同士、および各大学の学生サポートサークルの交流活動です。

 2018年10月に、熊本大学と九州ルーテル学院大学の間で定期的な交流がはじまり、現在では、5つの大学(熊本大学、九州ルーテル学院大学、熊本学園大学、崇城大学、熊本保健科学大学、九州東海大学)がスタッフ同士のミーティング「SUN-Kuma会議」をおこなっています。

 また、パソコンテイクなどの支援をおこなっている学生の交流会「SUN-Kuma交流会」がおこなわれています。

 こうした大学を越えたネットワークがあることは、障害のある学生が卒業した後も、スタッフや学生サポーターの支援の知識やスキルを維持し、アップデートする上でも、とても大切な条件になります。

 

5 まとめにかえて

 以上、熊本市内の3つの大学の障害学生支援にかかわる専門部署と学生支援者の活動、さらに、大学を越えた連携・交流のケースを紹介しました。

 熊本市内の大学は比較的、都市部に集中していて、スタッフや学生相互の交流がしやすい地理的条件がプラスに働いているとも思いますが、他の地域でも、参考にできることはありそうです。

 大学間連携が活発な地域のトップランナーといえるのは「京都」ではないでしょうか。京都では「公益財団法人大学コンソーシアム京都」という大学連携組織がプラットフォームとなり、その事業の一環として、障害学生支援に関する教職員研修や支援学生の養成などを協同でおこなっています。京都以外でも、岡山、静岡の大学コンソーシアムなどに同様の活動をみることができます。

  • 「公益財団法人大学コンソーシアム京都」の障がい学生支援の取り組み
  • 「公益社団法人ふじのくに地域・大学コンソーシアム」の障害学生支援の取り組み