革命小説【新世界創造 未来編】 第1部 第4話【蹴球革命】 | メシアのモノローグ~集え!ワールド・ルネッサンスの光の使徒たち~

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混迷をくり返す世界を救うべく、ひとりでも多くの日本人が現代に生を受けた意味に気づかなければなりません。世界を救うのはあなたの覚醒にかかっているのです……。

 待ちに待った卒業まで、残り1週間をきったある日の休憩時間のことだった。

 

 
 午後の3時。季節は春。あたたかいぽかぽかした陽気にキョウイチ、タクヤ、コツの3人は安らぎに浸っていた。

 

 
 唯一、同じ部屋のユーレイはどこでなにをしているのかというと、彼は外の広大なグラウンドを走り回っていた。

 

 
 軍事訓練学校では休憩時間、みんなでサッカーをやるのが通例となっていた。

 

 
 日本ではかつてサッカーと野球がスポーツの人気を二分していたが、西暦3035年の現在は野球は完全に廃れてしまい、猫も杓子もサッカーにしか関心を示さなくなっていた。野球は見ていてもなんにもおもしろくないスポーツだということに、ようやく日本国民全体が気づいたのである。 

 

 
 ここ、目黒区小山台・第1陸軍軍事訓練学校では、東西南北の4棟に分かれてサッカーの試合がしのぎを削っておこなわれていた。各棟のプライドをかけてのものだったので、かなりマジな試合がくり広げられていた。

 

 
 キョウイチたち南棟チームは可もなく不可もなくというチームだったが、レギュラーの中になんとユーレイがいたのである。

 

 
 ボランチの選手が、右サイドハーフの位置にいるユーレイにヨコパスを送る。パスを受け取ったユーレイは目の前の敵を半月ドリブルで抜き去ってチャンスを広げた。

 

 
 それを遠くから芝生に座り込んで眺めるタクヤがいう。

 

 
 「ユーレイ、けっこうやるじゃない」

 

 
 「うん、前から思ってたんだけど、かなり意外だね……」と、コツ。

 

 
 ふたりともスポーツはてんでダメだったので、ユーレイのサイドプレーヤーとしてのキレキレの動きには唖然とするばかりだった。

 

 
 そのとき、キョウイチはなにかをノートに書き込んでいた。

 

 
 「ユーレイは小中とサッカー部だったらしいから、あのくらいは当然だろうね」彼はいった。「ただ、最近のユーレイはいまひとつだな」

 

 
 「ええ?いまひとつなの?」サッカーのことはなにも知らないタクヤがいった。

 

 
 「ああ、半年前と比べると、ドリブル突破の成功率もクロスの精度もがくっと落ちている印象がある」と、キョウイチ。「さすがにユーレイは南棟チームのカミソリと恐れられるだけあり、マークもかなり厳しいものになってるんだろうなぁ」

 

 
 タクヤとコツは『へー、そうなんだ』という表情を一瞬浮かべ、再び試合がおこなわれているグラウンドに目を移した。

 

 
 ところで、そういうキョウイチはサッカーの実力はどうなのか?実はキョウイチははじめの頃、極上のラストパスを供給する出色の司令塔として活躍していたのだ。が、ある時期からキョウイチは、みずからの意思で記録係に回ることになった。

 

 
 どんな記録をとっているのかというと、巷のサッカーファン、サッカーライターのようなことはほとんど書かない。どの選手が何本すぐれたシュートを打ったか?何本すぐれたパスを出したか?何回すぐれた守備をとったか?そうしたものばかりで、戦術面や反省点などほとんど書くことはなかった。

 

 
 なぜそんなことをしているのかというと、サッカーのポジションに平等性をもたらすためだった。キョウイチはいう。

 

 

 
 サッカーの個人タイトルといえば、MVP、ベストイレブン、そして得点王くらいしかないじゃない?ボキはこれ、ぜったいおかしいと思うのよ。これじゃあ得点王になれる可能性が圧倒的に高いFWばかりが注目され、ほかのポジションの選手たちがどんなすばらしいプレーをしても、記録にも記憶にも残らないと思うのよ。これじゃあFW以外の選手たちが浮かばれない!

 

 
 そこで得点王以外にもいろんなタイトルをつくればいいんだよ。すぐれたスルーパスを1番多く出した選手にはスルーパス王、すぐれたロングパスを1番多く出した選手にはロングパス王、ドリブルで1番多く敵を抜き去った選手にはドリブル王、敵から1番多くボールを奪い取った選手にはボール奪取王っていうふうに。

 

 
 こうしたタイトルをつくることによって各ポジションの選手たちの活躍が、具体的な記録として永久に残るわけ。ペレの通算1000得点はサルでも知ってるけど、歴史上最も多くすぐれたスルーパスを出した人なんて誰も知らないじゃない?それじゃあ、かわいそすぎにもほどがあるってんだ!

 

 
 そうした不平等をなくすのがスルーパス王をはじめとする個人タイトルなんだよ。こうした個人タイトルの存在でFW以外のポジションの選手たちにもスポットライトが当たり、モチベーションも高まり、さらにFW以外のポジションをやってみたいという人が次々とあらわれると思うのよ、ボキは。

 

 

 
 ……試合がおこなわれているグラウンドとノートを交互に見ながら、ペンで記録を残し続けるキョウイチ。彼は試合終了後、選手たちにノートにとった記録を公開し、誰が何本すぐれたパスを出したか、誰が何回すぐれた守備をとったかを伝え続けた。それによってFW以外の選手たちの士気が高まり、チームにかたい結束が生まれていった。

 

 
 そしてキョウイチは1ヶ月おきに、その月のスルーパス王、ドリブル王、ボール奪取王などの個人タイトルに輝いた選手をみんなの前で発表した。それまでは得点王しかタイトルがなかったのでFW以外の選手たちはおもしろくなかったのだが、キョウイチの創意した新タイトルによって水を得た魚となり、『次こそはオレが!』とやる気をみなぎらせていった。

 

 

 

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