短編小説【悲しみのヒップアタック】 第4話【対策】 | メシアのモノローグ~集え!ワールド・ルネッサンスの光の使徒たち~

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混迷をくり返す世界を救うべく、ひとりでも多くの日本人が現代に生を受けた意味に気づかなければなりません。世界を救うのはあなたの覚醒にかかっているのです……。

 翌日からコシコシシロ―は、以前からイメージを組み立てていたとある新戦術の練習に取り組み出していた。

 

 
 ヒップアタックの最大の欠点は、敵をロープにふったものの敵がロープをつかんで跳ね返ってこなった場合である。それでヒップアタックをくり出してもスカッて終わってしまい、初代コシコシシロ―のように尻餅をついて相手に背後をさらす結果となってしまう。

 

 
 もしもそうなってしまった場合の一応の対策は存在していた。2代目コシコシシロ―が使っていた対策は【ゴロゴロエスケープ】というもの。

 

 
 ヒップアタックがスカッて尻餅をついたあと、相手の背後からの攻撃をとにかくかわすべく、リング上に横になってゴロゴロと場外に転がって逃げるというものだった。それがのりまきを作る様子に似ていることから一部のファンから【のりまきエスケープ】とも呼ばれる。

 

 
 が、しかし、である。非常に高い確率で敵の反撃から逃れられる対策ではあるものの、場外に出ないといけないので必ず劣勢に立つことになる。だいいちそんなことばかりを続けていては、レスラーとしていつまでたっても前に進めない……。

 

 
 そこでコシコシシロ―は新たな対策を試行錯誤し続けた。そしてたどり着いたのが、背後からのシャイニングケンカキックを両手でキャッチし、そこから膝十字に持っていくという連係だった。

 

 
 この新対策を考案してからコシコシシロ―はピーチ太郎をスパーリングパートナーに、連日にわたってシミュレーションに次ぐシミュレーションをくり返した。

 

 
 しかし、シャイニングケンカキックを長時間くり返すのは体力的にハードすぎるので、ピーチ太郎には軽いサッカーボールキックをやってもらうことにした。

 

 
 やがてコシコシシロ―は尻餅をついて後ろ向きのまま背後からのキックをキャッチし、そこから強引に膝十字に持っていく感覚をつかめるようになっていった。

 

 
 それにこの対策はたとえ失敗に終わっても、両手で敵のキックをガードできる可能性を含んでいる。コシコシシロ―は新対策にたしかな手ごたえを得ていた。

 

 
 ━━練習終了後の夜の公園。コシコシシロ―とピーチ太郎はトマトジュースを飲みながら星空を眺めていた。

 

 
 「ピーチ太郎、おまえ自身の練習もあるってのに、オレの新対策に付き合わせちまってすまねーな」

 

 
 そういうコシコシシロ―にピーチ太郎は笑って答えた。

 

 
 「いいんすよ、そんなこと。なにせタイトルマッチが3日後に迫ってますからね」

 

 
 「ああ」コシコシシロ―は渋い表情でうなずいた。

 

 
 3日後、コシコシシロ―はジュニアヘビー級のタイトルマッチを戦うことになっていた。相手は覆面レスラーのミスター・ダイナマイト。コシコシシロ―はこれまでミスター・ダイナマイトと何度か手合わせしたことはあるが、考案した新対策がうまく機能するかどうかはさすがに未知数だった。

 

 
 「おやっさんは結局、チャンピオンには1度もなれなかっじゃないすか?」ピーチ太郎がいった。

 

 
 「ああ、そうだったな」

 

 
 「その悔しさを2代目が晴らすんすよ」

 

 
 「ああ、任しておけ」

 

 
 そういってコシコシシロ―はトマトジュースをぐいと飲み干し、夜空を見上げて集中治療室の初代コシコシシロ―の姿を思い浮かべた。

 

 

 

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