そこは1000人ほどの観客で埋めつくされた小さなプロレス会場だった。
リングにはふたりのレスラーが上がっており、これから彼らの試合がはじまろうとしていた。
まばゆいスポットライトに照らされる中、司会者が選手たちを紹介する。
「赤コーナー、173センチ、95キロ、ヘルシンキ徳川!」
赤コーナー側で頭を激しくヘッドバンキングして気合いを高めるヘルシンキ徳川。
「続きまして青コーナー、171センチ、83キロ、コシコシシロ―!」
青コーナー側で勢いよくぴょんぴょん飛び跳ねて体をほぐすコシコシシロ―。彼の持ち味はその敏捷性だった。
試合がはじまる。つかんでからのスープレックスにもちこみたいヘルシンキ徳川だったが、コシコシシロ―はスピーディーな動きとテクニックでつかみをかわし続け、試合の主導権を渡すことはなかった。
そして試合開始から7分。コシコシシロ―がヘルシンキ徳川をロープにふる。そして跳ね返ってきたヘルシンキ徳川に、コシコシシロ―は必殺のヒップアタックをお見舞いした。
ヒップアタックとは軽く後ろを向きながらジャンプし、敵の顔面にケツをたたきつけるという技である。
ヒップアタックを炸裂させたコシコシシロ―はダウンしたヘルシンキ徳川にブラックジャックをしかけ、見事スリーカウントをとって勝利をおさめた。
が、特に人気があるレスラーではないので、客席からの拍手と歓声はわずかなものだったが……。