短編小説【大便の神】 最終話【トイレの希少性】 | メシアのモノローグ~集え!ワールド・ルネッサンスの光の使徒たち~

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混迷をくり返す世界を救うべく、ひとりでも多くの日本人が現代に生を受けた意味に気づかなければなりません。世界を救うのはあなたの覚醒にかかっているのです……。

 教室に戻っても男子生徒たちの嘲笑はやむことはなかった。そんな中、タグモとコズミは顔を曇らせて押し黙っていた……。

 

 
 と、そのときである。大五郎が席から立ち上がって語りはじめた。

 

 
 「みんな、オレたちは日本人だよな?」

 

 
 その当たり前すぎる質問に、男子生徒たちはやや虚をつかれて嘲笑をやめた。

 

 
 「日本にはトイレがない家、トイレがない学校なんてまず存在しない。トイレなんてものあって当たり前━━それが日本人の感覚だ。しかし、世界に目を向けると、その感覚は180度ひっくり返るんだ」

 

 
 クラス中の生徒たちが大五郎の言葉に耳を傾ける。

 

 
 「世界にはトイレが使えずに苦しんでいる人が20億人以上いるんだ。20人でも200人でもない。20億人だ。アフリカやアジアの貧しい国の人たちだな。彼らは衛生設備が整わない劣悪な環境で日々をおくっており、そのために下痢、住血吸虫症、トラコーマといった病気にかかって無数の人々が命を落としているんだ」大五郎は続ける。「特に子供たちの下痢は深刻で、排泄後に手を洗う水がないために手を洗わず、不潔な指をくわえてしまうことで下痢になってしまうんだ」

 

 
 無言で聞き入る生徒たち。

 

 
 「1グラムの排泄物にはウィルスが1000万個、細菌100万個、寄生虫のシスト1000個、虫卵100個が含まれている。それを手を洗えない貧しい国の子供たちは指をくわえることでとってしまい、次々と病気にかかって命を落としているんだ。これが世界の現状なんだ。それに比べ、オレたち日本人はなんと恵まれたことか。家にも学校にもどこにでもトイレはあり、手を洗う水にもまったく困らず、不衛生な環境ゆえの病気にかかって死ぬ子供もめったにいない。トイレがないという理由だけで命を落とす人があとを絶たない国の人たちから見れば、日本は奇跡のような国といえるんだ」

 

 
 大五郎を強い瞳で見つめるタグモとコズミ。

 

 
 「トイレというものがいかに大切で、いかに重要なものか。そして排泄後に手を洗う水というものがいかに大切で、いかに貴重なものか。オレたち日本人は1度冷静になって考える必要があると思う」大五郎は続ける。「学校のトイレで大便をしたのどうだのという理由で人をバカにしたりすることが、どれほど低レベルで幼稚なことかわかってもらえたか?もしもわからなかったら、そいつにはこの先トイレを使う資格はないといっていい」

 

 
 大五郎はいい終えると黙って席に座った。そしてしばらくたってからのことだった。小さな拍手が聞こえたのである。担任のおばさん先生だった。

 

 
 「よくぞ、よくぞいってくれました大山田くん。私はあまり生徒に強くいえない性格なので見て見ぬふりをしていたけど、学校のトイレで用をたした生徒がバカにされることには私も怒りと疑問を抱いていました。これからは学校のトイレで用をたした生徒を必死に守っていくと誓うわ」

 

 
 ━━それからの大五郎たちのクラスは大きく変わった。まず、クラスで1番モテる男子生徒が大五郎となった。それまでの人生で聞いたこともない言葉、知識、蘊蓄を次々と披露した大五郎に【知的な魅力】を感じたのだろう。

 

 
 やがてこの大五郎の【大便説話】は伝説と化し、日本中に知れ渡るようになっていった。そしてしだいに学校のトイレで大便をする生徒をバカにする風潮もなくなっていき、誰もが普通に学校のトイレで大便ができる世の中に変わっていった。

 

 
 大山田大五郎━━彼が【大便の神】と後世の人々に崇められるようになったのはいうまでもない。
                   短編小説【大便の神】終わり

 

 

 

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