自伝的小説【新世界創造】 第5部 第3話【ブタとサルたち】前編 | メシアのモノローグ~集え!ワールド・ルネッサンスの光の使徒たち~

メシアのモノローグ~集え!ワールド・ルネッサンスの光の使徒たち~

混迷をくり返す世界を救うべく、ひとりでも多くの日本人が現代に生を受けた意味に気づかなければなりません。世界を救うのはあなたの覚醒にかかっているのです……。

 小学生の頃に撮った深夜番組【ダンス・ダンス・ダンス】のビデオを見ていた私は、テレビの前でひとりで凍りついてしまった。やがて私の頭に次のような言葉があらわれる。

 

 
 ん?なんかへんだな……こんなオシャレでカッコイイ深夜番組を見たりしている“都会の男”であるはずの自分が、なんで人からバカにされたりしなければならないんだ━━?

 

 
 テレビの深夜番組といえば、ひとつひっかかる記憶がある。それは第2部にちらりと書いた次のエピソード。

 

 
 下校中、【オールナイト・フジ】という深夜番組の話題が上がったとき、クズノは『AV女優が出るんだよ!』といった。それに対しては私は『出ないねぇ』といった。

 

 
 【オールナイト・フジ】にAV女優が出る?それは深夜番組マニアの私にいわせれば、論外もいいところの無知発言である。

 

 
 もっとも、1980年代は知らない。しかし当時、1991年前後の【オールナイト・フジ】にAV女優など完全に出ない。これだけは断言できる。

 

 
 ところで、クズノの前述の発言は極めて大きな意味を持っている。【オールナイト・フジ】とは番組タイトルだけなら誰もが知っている超有名深夜番組である。そんな番組の内容をまったく知らないのだから、きっとクズノは━━

 

 
 生まれてこのかたテレビの深夜番組というものを1度も見たことがない

 

 
 ━━という結論に達せざるをえない。

 

 
 さらにだ。クズノのことを【大人の知識ナンバーワン】と確信していた生徒たちや、シニカル度や存在感がクズノより劣る生徒たちの頭のからっぽ度は、クズノのさらに遥か下ということになってしまう……。

 

 
 そういえば中学時代、体育の着替えを終えたとき、なにもすることがない私はひとりでエアーパーカッションをやったことがある。そんな私をクズノが『この人、なんかやってるよ』とバカにしたことがあるのだが、実は【イカすバンド天国】という人気深夜番組の最終回、審査員たちがバンドを組んでサンタナの【ブラックマジック・ウーマン】という曲を披露したのだ。私はそのときに演奏されたパーカッションを真似ていたのだが、テレビの深夜番組を生まれてこのかた1度も見たことがないクズノは、まさかこの世の中に【イカすバンド天国】なる深夜番組が存在していたとは露ほども知らなかっただろう(笑) 

 

 
 かくして、それまで威圧的に感じていたクズノとその他大勢の嘲笑的生徒たちの存在を縮めることに成功したのだが、もうひとり、クズノに匹敵する毒々しい存在感を放つ生徒がいた。

 

 
 あのカサモトである。しかし、そのカサモトにおいても、ひとつひっかかる記憶がある。

 

 
 やはり下校中のこと。小学生時代の友人のハタカワがこういった。

 

 
 「カサモトってやだよ。フォルクスワーゲン乗ってるんだーとかいって自慢すんだもん」

 

 
 そんなカサモトはエアードラムをくり返す私に『持ってんの?』と訊いてきた。それはつまり『おまえのうちにドラムを買えるだけの金があるのか?』ということである。

 

 
 当時、カサモトは自分の家が小金持ちであることを周囲に自慢していたわけなのだが、この言動によってひとつの事実にたどり着くことができた。カサモトはわずか1年前、社会現象を起こしたテレビドラマ【もう誰も愛さない】のことをまったく知らなかったのである。

 

 
 1990年に社会現象を起こし、1991年には再放送もされていた大ヒットドラマ【もう誰も愛さない】━━父親の無実を晴らすため、主人公の卓也は裁判費用を稼ぐべくあらゆる手をつくす。しかし最後に卓也を待ち受けていたのは路上での無残な死だった。

 

 
 そのとき、卓也の目の前に1枚の1000円札が風に運ばれて転がってくる。それを卓也は血に濡れた手でつかみ、小さく苦笑しながらふたつに折ってポケットにしまいこむのだった……。

 

 
 1990年当時、私はこのドラマにたいへん感動したのだが、翌1991年も再放送されたりなど、【もう誰も愛さない】現象はまだまだ日本中に濃く残り続けていた。そんな中、自分の家が小金持ちであることを自慢していたカサモトのマヌケぶりは……もう表現の言葉が浮かばない。

 

 
 かくしてクズノに続き、カサモトの存在も幼稚園児くらいの小ささに縮めることに成功したのであった。

 

 
 ところでそんなカサモトなのだが、彼はガハハハといった下品な笑い方や、『●●してねーんだもん』といった言葉づかい、そしてそのイモ臭い風貌などから、私はてっきりおんぼろアパートでハナをたらした弟とおかっぱ頭の妹などと暮らしている育ちの悪い貧乏な奴なのだと思っていたのだ。そんなカサモトが高級車を乗りまわす小金持ちの育ちだったとは意外だった。

 

 
 余談だが、【イカすバンド天国】のあとにもうひとつ【ヨタロー】という深夜番組が放送されていた。

 

 
 【イカすバンド天国】は知っているが、【ヨタロー】などという深夜番組は聞いたことはない━━という人は多いと思われる。

 

 
 1990年当時の日本において、【ヨタロー】という深夜番組を毎週見ていた小学生は、おそらく私ひとりだけだったのではないだろうか……?

 

 

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