自伝的小説【新世界創造】 第1部 第3話【火の鳥 後編】 | メシアのモノローグ~集え!ワールド・ルネッサンスの光の使徒たち~

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混迷をくり返す世界を救うべく、ひとりでも多くの日本人が現代に生を受けた意味に気づかなければなりません。世界を救うのはあなたの覚醒にかかっているのです……。


          
                 火の鳥

 

 

 ふたつ上の姉という人間を一言でいうと“いやな奴”だった。わがまま、傲慢、自分勝手という言葉を絵にしたような性格。

 

 
 ある日、すでに自分の机があるというのに、私が買ってもらったコンパクトでオシャレな机が羨ましいらしく、『あたしにもあーゆーの買ってー』といい出したのだ。

 

 
 お父さんの酒代のせいで家計が苦しいのを知っているはずなのに、なにをわけのわからないわがままをいい出すんだ?━━私はあきれと疑念を抱くばかりだった。

 

 
 また、テレビも常に姉のもので、裏で私が見たいアニメがやっていたとしても1度として見せてもらった覚えはない。特におにゃんこクラブというアイドルグループが司会をしていた【夕やけにゃんにゃん】という番組の裏でやっていたアニメ番組。私はそれをどうしても見たかったのだが、姉はけっして見せてくれることはなかった。姉と【夕やけにゃんにゃん】が憎くてしかたがなかった。

 

 
 しかし、【魁!男塾】というアニメ番組の最終回だけは、私はテレビに全身でしがみついて見ることにした。

 

 
 部屋に戻ると、私の机に姉が彫刻刀でつけたと思われるむごい傷がつけられていた……。

 

 
 そんなある日のこと。新聞のテレビ欄を見た私は目が飛び出そうになった。なんと金曜ロードショーに【火の鳥】が帰ってきたのだ!

 

 
 今夜は誰に邪魔されようと、世界が終わろうと、なにがなんでもぜったいに【火の鳥】を見てやる!━━そう固く決意した私の前に、またしても姉が立ちはだかった。【火の鳥】の裏の番組を見るといい出したのだ。

 

 
 しかし、いくらなんでも、【火の鳥】だけはぜったいにゆずれない。たとえ姉に殺されてもテレビを離さないぞ!━━そのようなことを思った次の瞬間、姉がこういったのだ。

 

 
 「ビデオに撮ってあげるよ」

 

 
 そうなのである。実はこの頃、メシア家に29インチのリモコンテレビとビデオがやってきていたのだ。

 

 
 私は姉に【火の鳥】をビデオに撮ってもらい、【火の鳥】を翌日の楽しみにすることにした。

 

 
 ━━手塚治虫のライフワーク【火の鳥】━━第1部の鳳凰編は我王と茜丸の物語。右手1本で火の鳥の彫刻を掘る我王。しかし茜丸に濡れ衣を着せられ、残った右手をも切り落とされてしまう……。なにもかも失ったゴミのような我王に、子犬がやさしく寄り添う。一方、欲望に溺れた茜丸は……。

 

 
 第2部・大和編。争う2国の男と女が恋に落ち、生き埋めにされても彼らの愛は“笛の音”とともに消えることはなかった……。

 

 
 そんな彼らをあたたかく見守り、要所要所で救いの手を差し伸べたのが火の鳥。火の鳥はメスとして描かれ、森羅万象すべての愛憎をやさしく包み込む……。

 

 
 当時、小学3年生くらいだった私はこの【火の鳥】を、毎日毎日、何度も何度も、くり返しくり返し見続けていった。女性シンガーのうたうEDも印象的な曲で、よく口ずさんだものだった。

 

 
 そんなある日のこと。家にひとりでいた私の顔を、カーテンの隙間から差し込む太陽の光がそっと照らす。そのとき、私はいつしか必ず火の鳥を神とする宗教をつくり、世界を変えてみせると固く誓うのであった。

 

 
 まだ子供だったので具体的なものはなにもない。ただ、漠然とそうしたことを思っただけだった。しかし、私と【火の鳥】の出会いは、ただの偶然ではなか
ったのだ……。

 

 

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