オペラの夢を断念したニールはその後、奨学金で通える地元の大学へ進学した。しかし進学から3年後、就職をひかえた時期になってもニールの心からオペラが消えることはなかった。
部屋でオペラのCDをかけながら、恍惚の表情でうたうニール。そのときだった。
「ニール、いるの?」仕事から帰ってきた母のエスターだッた。
その瞬間、ニールは急いでオペラの音楽を消した。
「あ、ママ」
「ただいま」
そしてニールはとりつくろうように口を開いた。
「そうだママ、就職、いいところにきまりそうだよ。これでちょっとはママに楽させてあげられるよ」
するとエスターはしばらく黙り込んでからいった。
「……本当にそれでいいの?」
そしてエスターはとあるものをニールの前に差し出した。それは捨てたはずの音大のパンフレットだった。
「ママのために自分を犠牲にしないで」
「だってママ……」
「1度きりの人生よ。やりたいようにやりなさい」
感極まるニール。
「ママ、オレ約束するよ。必ずオペラ歌手になってママを劇場に招待するから!」
その後、ニールはいくつものバイトをかけもちし、音大への進学資金を必死でためた。そして全米で最も由緒あるニューイングランド音楽院を受験。合格率30%という狭き門を突破し、見事入学を果たすのであった。
さらに、そこでニールの才能は認められ、成績も常に上位。すべてが順調に進んでいるかに思われたが……。