母の言葉に奮起したハインズ・ウォードは、卓越したレシーブ力とハードなブロックを武器に、やがてチームの顔的存在に成長していく。そしてリーグのオールスターを集めた晴れ舞台プロボウルに4年連続で選ばれるなど、リーグを代表するワイドレシーバーになっていった。
そしてむかえた2006年2月、長年の夢だったNFLの頂点をきめるスーパーボウルに出場。アジア系アメリカ人として初のMVPを獲得。ハインズ・ウォードは偉大なるアメフト選手として賞賛された。
しかし、彼にはまだ果たさなければならないことがあった……。
ある日の自宅でのこと。
「韓国へ行く?いやだよ、冗談じゃない」キム・ヨンヒが当惑した声を発した。「私は2度と帰らないときめてアメリカへ出てきたんだから……」
そんな母にハインズ・ウォードはまっすぐに見つめながらいった。
「どうしても行かなければならないんだ」
韓国━━それはキム・ヨンヒにとってはつらい思い出の場所。キム・ヨンヒの脳裏を過去の苦しい記憶がかすめる……。
しかし、ハインズ・ウォードはくり返しいった。
「僕にとってもつらい旅になるかもしれない。でも、どうしても行かなければならないんだ」
どうしても行かなければならない理由━━それは幼い頃、混血児ゆえに迫害され、韓国人の母を見せようとしなかったあの事件が関係していた。
その後、ふたりは30年間、1度も足を踏み入れていない韓国の地に向かった……。