ユニオンタウン高校の教室で、エリザベスたち4人はなにやらセリフを発していた。なんとイレーナの物語を演劇にまとめ、歴史研究コンテストで発表することにきめたのである。パネルやスライドでまとめる形では伝えきれないと感じたのだ。
そして1ヶ月に及ぶリハーサルの末舞台は完成。タイトルは≪ビンの中の命≫と名づけられた。
むかえた2000年2月、4人はクラスメートたちの前ではじめて≪ビンの中の命≫を披露したのだが……。
━━学校帰り、4人は肩を落として無言のままの状態であった。≪ビンの中の命≫に対するクラスメートたちの感想が辛辣なものだったのだ。
「こんなんじゃ、歴史コンテストで恥かくだけよね……」エリザベスがため息まじりにつぶやく。
しかしそのとき、メーガンが開き直ったような明るい口調でいった。
「歴史コンテストなんてどうでもいいじゃん」
「え!?」びっくりして聞き返す3人。
「私、調べているうちに思ったの。イレーナさんの思いを受け継いでいきたいって」
「たしかにそうよね」
「でしょ?演劇を選んだのだって、イレーナさんの思いをじかに伝えるためじゃない。このままでいいんだよ!」
メーガンの言葉によってエリザベスの表情に笑顔が戻る。
「そっか、このままでいいんだ!」
4人の中で大きな変化が起こりはじめていた。歴史コンテストで評価されるよりも、イレーナの思いをしっかりと受け継いでいきたい━━そう思うようになっていたのだ。
実はイレーナもある人の思いを受け継いでいた。それは父親のスタニスワフである。
故郷の村に死亡率の高い伝染病が流行したとき、医者だったスタニスワフはほかの医者が逃げ出す中、貧しいユダヤ人たちを無償で診療したという。しかしその結果、みずからも伝染病に感染し、取り返しのつかないことになってしまったという。
ベッドに横たわるスタニスワフは娘のイレーナにいう。
「イレーナ、悲しむことはない。パパは後悔していないよ。誰かが苦しい思いをしていたら、知らないふりをしてはいけない。なにがあっても助けようとする努力が必要なんだ」
それが大好きだった父が最後に残した言葉だった━━。
イレーナはそんな父の遺志を受け継ぎ、命懸けでユダヤ人の子供たちを救ったのである。その想いを受け継いだエリザベスたち4人は歴史コンテストの直前、最後のリハーサルとして町の教会を舞台にし、町の人々の前で≪ビンの中の命≫を披露した。
そして劇が終わった瞬間、客は総立ちになり拍手の雨が4人に降り注いだ。それから4人は客の握手攻めに合う。アメリカ人がはじめて知る物語≪ビンの中の命≫は深い感銘を与えたのだ。