とあるニュース番組でのこと。女性キャスターの明るい声が聞こえてくる。
『アイオワ州スペンサーで有名なものはふたつあります。ひとつ目はクレイ群フェアで毎年30万人が参加します。そしてふたつ目が猫のデューイです!』
なんとデューイのことがテレビや全国紙でとりあげられ、地元アイオワはもとよりほかの州からもデューイに会いたいという人が殺到した。
当時を振り返ってとある男性はいう。
「旅行中に隣の席に座った人にアイオワからきたといったら、『デューイという図書館猫がいるところね』といわれたんです。ビンゴってね。故郷が知れ渡ってとても嬉しかったですよ」
また、とある女性はいう。
「当時はしょっちゅう会うために図書館に通ったわ。特にいやなことがあった日にデューイに会いに行くと元気になったの」
いつしかスペンサー図書館の利用者は年間4万人にも増えていた。しかし有名になるにつれ、新たな問題も発生した……。
ある日のこと。ヴィッキーのもとにひとりの女性がやってきて突然このようなをいい出した。
「館長、実はデューイを返却ボックスに投げ込んだのは私です!」
が、またちがう女性があらわれてこういい出した。
「恥ずかしながら私、ついついこちらの返却ボックスに預けてしまいまして……」
有名になった途端、デューイの元飼い主と名乗る人が11人もあらわれたのである。無論、ヴィッキーは誰ひとりとして相手にしなかった。
その後もデューイは周りに変化を起こし続けた。
図書館で毎日ひとりで母の帰りを待つ少年がいたのだが、ある日の昼、突然少年の母が図書館にあらわれたのだ。
母は息子に笑顔でいう。
「今日は早く終わったのよ」
そんな母に少年はデューイを紹介する。
「ママ、これが話していたデューイだよ」
「かわいいわね」母はデューイの頭をやさしく撫で、微笑みながらお礼をいった。「デューイ、ありがとうね」
しばらくしてこの親子は新たな職を見つけ、ほかの地に旅立っていったという。
━━家に帰宅したヴィッキー。
「ただいま」
そんな彼女に娘のジョディがさっそく話しかける。
「ママ、デューイは元気?今日はどうだったの?」
デューイのおかげで娘との会話が戻ってきた。
デューイを軸に人々の心が明らかに変わろうとしていたスペンサーの町。すべてが順調に進んでいるかに思われたのだが……。