落ち葉を拾い集め出してから1年が過ぎた1981年、一雄は自分が生み出した芸術を世に問うべく、自分の作品を地元の美術展に持ち込んだ。
一雄に作品を手渡された美術展の女性は驚いた声をあげる。
「なんですか?これは?」
それに一雄はこう答えた。
「“葉彩画”と名づけました。よろしくおねがいします」
出展した作品は≪夕雨のあと≫というもの。素材は落ち葉のみ。ほかに絵具などは一切使っていない斬新な絵画だったが断られてしまった……。
それでも一雄は落ち葉の絵に没頭。唇や髪の毛や肌の色の質感・色彩など、いろいろな落ち葉を組み合わせて表現する方法を磨いていった。その結果、葉っぱの質感と色を巧みに操れるようになっていったが、落ち葉の絵に対する美術界の反応は冷ややかなままだった……。
さらに借金の過酷な取り立ても続いており、一雄はアヤノと妻を抱き寄せながら借金取りが帰るまで相変わらず居留守を続けていた。
ドアを激しくたたきながら怒声をあげる借金取りたち。それにぶるぶると怯える母と妻……落ち葉の絵画で勝負するなど、やはり勝ち目はなかったのだろうか?━━拾う神など影も形もあらわれそうになかった。
「覚えてろよ、この野郎!」
ようやく借金取りが帰って胸をなでおろしたのも束の間、しばらくしてから1本の電話がかかってきたのだ。それに出て当惑するアヤノ。
「なんですか、あなた!あたいはなんにもわからんとです!」
その様子を見て妻が一雄にいった。
「あなた、きっと……」
その間も黙々と葉彩画の作業をおこなっていた一雄は手を止めて立ち上がり、表情をひきしめてアヤノから受話器を受け取ってこういった。
「少しずつでも必ず金は返す。いやがらせはやめてくれ!……もしもし?」
しかし電話口からは、なぜかフランス語が聞こえてきたのだ……。