山の中に突如あらわれた謎の階段━━地元の人でさえ訪れることのない山の中になぜ階段などがあるのか?
階段は山頂へと向かい、上へ上へと伸びている。いったいどれだけ続くのか?と思わせるほどに。
1000段、2000段……まだまだ終わる気配がない。
そして数えること6000段、ついに階段の終点に到着した。
階段の上には細い道が続き、その先にはなんと民家が建っていた。こんな山の中にいったい誰が住んでいるというのか?
すると家の中から年老いたふたりの男女が出てきた。そう、彼らこそ、あのリュウとザオチンのふたりだったのである!村を出てから50年間、彼らは半坡山の山頂で生き続けていたのだ!
70歳になったリュウはいう。
「あれから1度も村へは帰っていません。覚悟をきめてやってきたんです。『ザオチンと一緒に生きていく!自分たちだけの楽園を探すんだ!』と心にきめて」
……50年前、村を捨てる覚悟をきめたリュウとザオチンは護身用の刀をたずさえ、子供たちを連れて真夜中の山の中に入っていった。
向かった先は半坡山。麓から高灘村までは歩いて4時間ほどの距離だったが、この山に入る者は誰もいなかったという。
ふたりは誰にも干渉されることのない暮らしを求め、ほかの村人にはぜったいに見つかることのない山の中で自給自足で生きていくことをきめたのだ。
真夜中の山中を歩いて進むリュウたち。子供たちは不安げな様子で母のザオチンにたずねる。
「お母さん、どこに向かっているの?」
「お母さん、お腹すいた」
そんな子供たちにザオチンは小さく微笑みながらいう。
「大丈夫だから、安心していなさい」
彼らの先頭に立ってリュウは真夜中の山の中をひたすら進み続けていった。
ようやくたどり着いた岩影。リュウたちは当初の頃、しばらくそこで生活をしたという。
その後、本格的に家造りを開始。山から粘土を掘り出し、瓦を1枚1枚焼いて2年後に家が完成したという。
当時を振り返って80歳になったザオチンがいう。
「ちょうどその頃、子供が生まれてねえ、生活はたいへんだったけど毎日本当に楽しかった」
しかし、1番の問題は病気になったときのことだった。反対側にある常楽村に行けば薬も食糧も手に入るが、山を降りるには危険がともなった。
リュウは泥まみれになりながら山を降りようとしていたとき、『そうだ!』とひとつのアイディアを思いつく。その日からリュウはとある作業に没頭して汗を流した。
……数年後、リュウは家族をとある場所に案内した。たどり着いた瞬間、ザオチンの顔が満面の笑みに変わる。そこには家族が生きるための希望の道がつながっていた。
そう。それこそ、いざというときのために麓の村に降りられるようにとつくられた6000段の階段だったのだ。その階段のおかげで子供たちは学校にも通うことができたという。ちなみに階段にはすべり止めも施されていた。
成長した子供たちはみんな山を降りたが、今もときどき食事の支度の手伝いをしにくるという。
リュウはいう。
「最初に山に行こうといい出したのは私です。だからぜったいに不幸にしてはいけないと必死だったんです」
ザオチンも微笑みながらいう。
「階段を踏みしめるたびに、彼の愛を感じます」
そんなふたりが今も大切にしているものがある。50年前にプレゼントしあったかんざしとハンカチである……。
リュウはいう。
「この先、どちらかが神に召されても、子供たちを呼んでここで暮らし続けるつもりです」
ザオチンは笑いながらいう。
「フフ、天国でまた会うんですよ」
6000段の階段━━それはひとりの青年が愛する女性と子供たちを命懸けで守ってきたなによりの証。どんなに険しい道のりも、愛と希望があれば乗り越えられるのかもしれない……。
6000段の階段 終わり