それは2006年の7月7日、中国のテレビ番組でのことだった。
多くの人々が行き交う非常に広大な昼の公園。そこで眼鏡をかけたひとりの若い女性が弟とともに手紙を持ちながら、テレビカメラに向かってなにかを訴えかけているようだった。それを番組の女性キャスターがマイクを向けながら聞いていた。
女性の名はゴ・ガクホウ。彼女は手紙をかざしながらカメラに向かっていう。
「この手紙は今、アメリカに住んでいる養父母から預かってきたものなんです」
手紙の内容は次のようなものだった。
1996年にとある夫婦が複雑な事情から生まれたばかりの子供をほかのところに預け、もしも我が子を育ててくれた人がいたなら10年後の七夕の日にこの広場にきて、我が子の無事と成長を知らせてほしいというものだった。そうしたメッセージを託した手紙を生まれたばかりの我が子のそばに置いて、その両親は立ち去ったのだという。
両親に置き去りにされた子供はセイシちゃんという名前の女の子で、現在育てているのはアメリカ人のマーチン夫妻という人たち。セイシちゃんは彼らのもとで順調に育っており、手紙に書かれていた2006年7月7日にセイシちゃんの元気な様子をマーチン夫妻は実の両親に伝えようと思っていた。しかし仕事の都合で行けなくなってしまう。
マーチン夫妻に中国人の知り合いはいなかったが、夫の同僚の男性に中国人女性の知り合いがおり、その人にセイシちゃんの無事を代わりに実の両親に伝えてもらおうとしたのだ。その中国人女性というのがゴ・ガクホウだったというわけなのである。
しかし当日、仕事上でトラブルが発生し、手紙に書かれていた約束の時間である午前中には広場におもむくことができなかったのだ。
「やっぱり、もう帰ってしまったんだわ……」がっくりとうなだれるゴ・ガクホウは番組の女性キャスターに問いかける。「ハンさん、30代くらいの人待ち顔の男女を見かけませんでしたか?」
それにハンキャスターは残念そうに答える。
「さあ、覚えている限りでは……」
「どうしよう。セイシちゃんの両親に会えなかったのは私のせいだわ……」
落胆の底に沈み込むゴ・ガクホウに、ハンキャスターが励ますように声をかける。
「終わってしまったことを悔やんでもしかたがないわ。さあ、元気を出して」そしてハンキャスターはこう宣言した。「探してみるわ。私に任せて!」
かくしてセイシちゃんの両親探しの物語が幕を開けるのであった。