結婚し、いよいよ無料のオペラハウスづくりに向けて始動し出したトニーとサリー。しかしふたりの前に現実の壁が立ちはだかる。
『利益の上がらないオペラのために劇場を貸すわけにはいかない』とどこからも断られてしまうのだ。
しかし、落胆が続いていたある日、ふと訪れたとある小さな映画館で奇跡が起こる。その映画館の所有者がなんとトニーが子供の頃、レストラン【アマト】に常連客としてきていたフィオーレおじさんで、映画館をただ同然で貸してくれるというのだ。
オペラハウスはこれで決定した。次はメンバー集めである。
トニーとサリーには出演料を払えるだけの余裕はまったくなかったが、彼らにはひとつの秘策があったのだ。
当時、若手の歌手たちは大きな劇場では出演チャンスが少なく、出演料を払えない代わりに主役を演じさせるということでメンバーを揃えたのである。
かくしてオペラ歌手を目指す若者たちがトニーとサリーのもとに集まり、ついに劇団が正式に誕生することになる。
劇団名は━━【アマトオペラ】。トニーの名字であるだけでなく、アマトとはイタリア語で“最愛の人”を意味するのだという。まさに愛のオペラハウスなのだ。
そしてむかえたこけら落としの舞台。主演はもちろん━━サリー・アマト。
終演後、客席からは拍手が止まず、中には涙を流している人もいたという。
アマトオペラにおもむいた客は大劇場に着飾って出かけるような人たちではなく、地元の貧しい人たちばかりであった。
そして握手会のときのこと。観客の老人の男性がトニーに握手をしながら『今日はどうもありがとう。とても楽しかったよ』と感謝を述べる。そして握手を終えたトニーの手に数枚のコインが渡されていた。
アマトオペラにおもむいた客たちは『これからもオペラを続けてほしい』という想いを込め、小銭ばかりではあったもののトニーとサリーに寄付金を渡したのである……。
トニーとサリーはそれを運営資金として使うことにしたが、それだけではとても足りないためトニーは舞台装置の製作、メイク、指揮などをひとりですべてこなした。一方、サリーは昼はおはりこの仕事をして運営資金を稼いだという。
ふたりは『オペラで人々を幸せにしたい』という思いから休まずに働き続け、ふたりで椅子に座りながら眠りにつくこともあったという。