とある女性アイドルの話である。その女性アイドルはダンスの先生に次のようなダメだしをされたことがあるという。
「ただ音楽に合わせて笑って踊っているだけ。歌詞の意味が伝わってこない」
このダメだしに女性アイドルは深く反省したらしいのだが、私の胸には疑念の感情がじわりと広がることとなった……。
そういえば以前、振付師の南流石のドキュメント番組をテレビで見たことがあり、弟子たちの踊りを見終えた先生の南流石が弟子たちにこのような叱責を飛ばしていた。
「AくんとBくんの踊っているときの表情はなんなの?Cくんは始終笑顔を浮かべながら踊ってたでしょ?Cくんの表情を見習いなさい!」
つまり南流石は踊りとは体だけでするものではなく、顔や表情もこのうえなく大事なパフォーマンスなのだということを弟子たちに伝えようとしているのだ。
が、しかし、である。世のダンスの先生たちには悪いが、その教え方は大きくまちがっていると思う。
憧れのステージの上で踊ることができている、自分の踊りを多くの人々に見てもらっている━━たったそれだけで喜びによる、幸福感による、達成感による、充足感による笑顔は自然と生まれ出てくるはずである。
アイドルである以上、売り物の作り笑顔は多少必要だとは思うが、私はステージ上でのアイドルの笑顔は今書いたような自然な笑顔であってほしいのだ。『無表情で踊るのではなく、もっと楽しそうに笑いながら踊れ!』という指導のしかたでは、アイドルたちがステージ上で自然な喜びによる笑顔を浮かべることができなくなると思うのだが……。
━━SKE48の松井珠理奈ちゃんは≪恋を語る詩人になれなくて≫や≪手をつなぎながら≫といった曲で“太陽のような……”としか表現しようのないパーフェクトな笑顔を爆発させながら踊っているのだが、その松井珠理奈ちゃんの太陽の笑顔がダンスの先生たちのまちがった指導による作り笑顔である可能性があると思うと残念でならない……。