あれからちょうど44年。
今年は早めの春の到来故に、既に終わりかけてはいるが、
実家の庭には、今日もあの花が、変わらずに咲いていた。 それは、レンギョウ。
13歳だった少女が、44年前の今日、4月17日に、実家の庭に手植えした花なのだ。
庭の改造や植物の移動などで、親木は枯れ、子か孫か・・・・、何代目かにはなっているには違いない。
だが、44年間、毎年途切れることなく、日光の春告げ花「八汐躑躅」が咲くと、
その後を追うように、鮮やかな黄色の花を枝一杯につけ、
「ここにも春が来ているよ。」と、人々の気を引く花、レンギョウ。
4月17日は、「弥生祭」 (日光二荒山神社例大祭)
春告げ花の八汐躑躅に彩られた「花家体(はなやたい)」が街中を二荒山神社へ向けて繰り出し、
華やかに春の訪れを告げる。
旧日光市民にとっては、故郷の魂そのものの祭。故郷を愛する血がたぎる祭だ。
小・中学校は、郷土理解と銘打ち、校外学習の場として、朝の朝礼だけで切り上げていた。
さて、ここから、花を愛する13歳の少女の物語が始まる。
少女は、帰路を急いでいた。いったん家に帰ってから、祭に行く。
中学2年生となった今年は、クラス替えがあった。1年からの仲良しの友だちとは離れたが
小学校の時同じクラスだった友だちと一緒になり、新しい友だちも加わった。
5人のグループが出来上がりつつある。みんなで祭に行く約束が出来ていた。
大切な時だ。待ち合わせ時間に遅れてはいけない。
「ねえ、おばあちゃん、これから友だちとお祭りに行ってくるよ。」
この言葉が、何を意味するか祖母は了解している。
「お前はね、小遣いやっても、花ばかり買ってくるんだから・・・・・・。子供らしくないよ。
また、どうせ今日も花を買うんだろう。花を買ってくるなら、小遣いはやらないよ。」
「買わないよ。今日は、買わない。約束するから・・・・・・ねっ。」
「本当かい? それじゃ、やろうかね。・・・・・・はい。 じゃ、行っておいで。気をつけてね。」
神社の境内に着くと、既に市内14町の花家体は、集合していた。
毎年見ている変わらぬ光景だが、今年は、「美しい!」と、少女は思う。初めて抱いた感情だ。
たくさんの観光客も来ている。故郷の誇れる物の一つだと心に感じている。
日光生まれで日光育ちの母の祭への熱い思いを小さい頃から聞かされてきた。
知らず知らずのうちに、しっかりとその思いを受け継いでいるのであろう。
その思いを少し理解できる年齢になったのだろう。
まもなく、神事が始まるという。だが、友だちの声が耳に届いた。
「ねっ、もうお祭りは見たからいいよね。お店を見に行こうよ。」
「うん、そうしようよ。」
少女は、ちょっぴり不満に思うが、みんなが賛成であるなら、仕方がない。
去年までは、祭の楽しみは、イコール露店で買い物だった。
今年は、なぜかそれだけではいけないような気がしている。だが・・・・・・「仕方ないね。」
リンゴ飴、お好み焼き、大判焼き、焼きそば、わたあめ、金魚すくい、水風船・・・・・・お決まりの。
友だちは、それぞれに好みの物を買って食べては、興じている。
少女は、それらには手を出さない。なぜって、やはり花を買うつもりでいるから。
三色スミレやデイジー、ナデシコ、カルメリア、・・・・・毎年、花壇に植える草花を買うのが定番。
去年は、少し違っていた。鉢植えの赤いカルセオリア、巾着草ともいう、ちょっと不気味な花。
今年は、もっと背伸びして、花木を買おうと、心に決めている。だって、もう子供じゃないもの!
「わたし、花を買いたいんだ。ちょっと待ってて貰ってイイかな?」
怪訝な顔をされてしまった。それでも「良いよ。」の返事に胸をなで下ろす。
桃、沈丁花、ユスラウメ、雪柳、木蓮、石楠花、躑躅・・・・・・・・・。
目移りする、迷う、友だちを待たせているのも気になる。
その時、「私をお家に連れてって。」 どこからともなく聞こえる声。目が合ったのは、黄色いレンギョウ。
鮮やかな色に、心も浮き立つ。
友だちと別れ、家路を急ぐ。早く植えてやらなければ・・・・・・・・。
だけど、ちょっぴりだけ、回り道しちゃおうかな。
A君の家の前を通って行こう。会えると良いな・・・・・・・・。ときめく心。
偶然にも・・・・・は、なかった。それでも、家の前を通る時、くすぐったい気持ちになった。
「ただいま。」と言いながら、守らなかった祖母との約束を思い出す・・・・・。
祖母は、少々呆れた顔をしながらも、何も言わずににこにこするだけだった。
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昨年の4月から5月にかけて、「花を愛した少女の物語」を四部作で書き始めました。
ところが、花のシーズンに入ると、庭の紹介で手一杯。第三部で休止。完結編は何処へやら。
気にしながらも、延び延びとなり、
どうせ書くなら定植記念日となる4月17日を待とうと思うようになりました。
事実を元に、記憶が曖昧な部分はフィクション化されていますので、ご了承ください。
昨年の記事は、こちらからいけますので、興味がある方はクリックしてください。
「Ⅰ 4歳編」 http://ameblo.jp/js-cott/entry-11234568169.html
「Ⅱ 8歳編」 http://ameblo.jp/js-cott/entry-11240305280.html
「Ⅲ 11歳編」 http://ameblo.jp/js-cott/entry-11257622061.html
「弥生祭」 http://ameblo.jp/js-cott/entry-11226265138.html
http://ameblo.jp/js-cott/entry-11230293327.html