馬術稽古研究会

馬術稽古研究会

従来の競技馬術にとらわれない、オルタナティブな乗馬の楽しみ方として、身体の動きそのものに着目した「馬術の稽古法」を研究しています。

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  駈歩や巻き乗りを行う時などに、気をつけていているつもりでもつい内方手綱を引き過ぎてしまう、外方手綱の張りを保てない、あるいはお尻が外にズレて内側の鐙が外れてしまう、
といった「クセ」が治らないとお悩みの方というのは少なくないのではないかと思います。
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  その原因として、

拳の操作を身体から独立させて行うことがまだ出来ない初心者の方が、内方手綱を控えたり開いたりしようとする時に、腰を捻って脊柱を軸に上体を内向きに回すことによって拳を動かそうとすることが多いこと、

また、人間の身体の構造上、開き手綱を使う時のように上腕を外旋させると、肩甲骨が内旋し、それにつれて胸がその腕の方へ向くような動きが出やすいこと、

あるいは内臓の位置などの関係で左回りの回旋の方がしやすい傾向があると言われていること、

などから、特に左手前の運動時に上体が内向きに捻れると同時に腰が外側に落ちて重心が外方側に偏ってしまう、といったことが起こりやすいと考えられるわけですが、

さらにもう一つの要因として、

乗馬の運動によって発生する様々な方向への「慣性力」の相互作用によって、上記のような「クセ」が引き起こされている、という可能性があります。




・3次元の揺れが起こす「モーメント」

  馬に乗ると、馬体の様々な方向への「揺れ」のを感じると思います。

  極端に言えば、馬が移動のための手段ではなくなった現代の私たちにとっては、この「揺れ」やそれに伴う慣性力を身体で感じ味わうことが、馬に乗ることの主たる目的だといっても良いかもしれません。


 馬の「揺れ」は、馬体の上下振動と、前後左右への回転運動、水平面上の回転運動、というように分解して考えることができます。


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①前後方向への縦の回転運動は、
ピッチング・モーション、

②左右方向への横揺れするような回転運動を、
ローリング・モーション、

③水平面上でスピンするような回転運動は、
ヨーイング・モーション、

というように呼ばれます。


  馬に乗ったときに感じる「揺れ」は、これらのモーションが複合的に組み合わさることで出来ており、このことが、前述のような「クセ」に関係しているのではないかと考えられるのです。




・ジャイロ・モーメントとコリオリ力

   転がっているコインが左右に傾くと、その瞬間に傾いた方へと向きが変わり、曲がっていきます。

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  縦に回転(ピッチング)しているコインに、横に倒れようとする動き(ローリング)が加わると、その瞬間、二つの動きの回転軸のいずれとも直交する、コイン側面の中心を通る垂直線を軸とした回転(ヨーイング)トルクが発生するわけです。

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  このときの、初めの回転の運動軸と、あとから加わった回転、そしてその結果起こった回転の軸との関係を人の右手で表すと、次のような感じになります。

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図のように、①と②の掛け合わせによって結果的に起こった回転運動③を、「ジャイロモーメント」といい、

このような回転運動によって、物体の運動に「見かけ上のズレ」を発生させるような力を、「コリオリ力」といいます。

  
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  冒頭のような「クセ」の場合で言うと、

馬の一歩一歩の加速度によって、騎手の上体に起こる後ろ向きの回転運動が「ピッチングモーション」、

馬の重心が内方前方へ移動する時の慣性力によって、騎手の上体が外側に振られることによる横向きの回転運動が「ローリングモーション」、

そしてその2つの回転運動の掛け合わせによって発生する「ジャイロモーメント」によって、騎手の身体が内向きに捻れる(ヨーイングモーション)と、
そのために二次的に引き起こされる「コリオリの力」によって、
真っ直ぐに随伴しているつもりでもお尻が何故かだんだん外側にズレていく、というようなことになっているのではないかと考えられます。


  「コリオリ力」の大きさは、それぞれの軸回転の速さ(角速度)によって決まります。

  つまり、馬の一歩一歩の加速度や、内側への傾き具合が激しくなるほど、
そして騎手の身体の動きと馬の動きとの「シンクロ率」が低くなるほど、慣性モーメントが大きくなって、上体が捻じれたり、お尻がズレて鐙が外れたりしやすい、ということになります。



  このようなことが原因で起こる「上体の捻じれ」は、おそらく誰もが経験しているものなのでしょうが、このような説明がされることは、これまでほとんど無かったのではないかと思います。


  騎手にとって自覚しにくく、指導者にとっても、見かけからではなかなか観測することが難しい「見えざる力」によって起こるこの「クセ」を、ここではとりあえず『コリオリ捻じれ』とでも呼ぶことにしましょう。



・ズレないためには?

『コリオリ捻じれ』によって、いつの間にか運転席から放り出されたような状態になることをなるべく防ぐようにするためには、「ジャイロモーメント」の発生をなるべく防ぐことが有効だろうと考えられます。

  つまり、回転運動の掛け合わせによるジャイロモーメントがなるべく起こらないように、騎手自身の身体に、ピッチングやローリングといった「回る動き」が起こらないように意識して乗ることで、
予想外の力に振り回されずに済むようになるのではないか、というわけです。


  対策のまず一つは、騎手の身体の「ピッチングモーション」を減らす工夫です。

  馬体の前後動の慣性力によって騎手の身体がひとかたまりで「水飲み鳥のオモチャ」のように前後に振れてしまわないないように、

股関節や背中を柔らかく使うことで鳩尾や胸の辺りを一歩一歩前に突き出すように随伴させ、上体を真っ直ぐに保つことで、ピッチングモーションを少なくすることが出来るだろうと思います。


  因みに、馬が急停止したり、尻ばねしたりしたような場合でも、
その動きに振られて前のめりにならないようにして上体を真っ直ぐに保つことで、その直後に馬が身体をひねって「ヨー軸回転」しても、ジャイロモーメントで横に放り出される確率が低くなるのではないかと思います。
(指導者がよく、落ちそうな状態の人に「体を起こして」「踵を下げて」などというのは、そういう意味でも理に適っていると言えます。)
 

 それから、『コリオリの力』を発生させないためには、
騎手の身体の「ローリング」、即ち上体が真横に傾くような動きをなるべく小さくする、ということも大切です。

    例えば駈歩の際には、馬の後肢から前肢への体重移動だけでなく、外方肢から内方肢への体重移動に伴う「ローリング」によって、騎手の身体には、一歩一歩、外方へ引っ張られるような慣性力が働きます。

   このときに、馬体の内側へのローリングに合わせて、内方の鐙に加重するようにして騎手の重心も内側へ移動させてやると同時に、内方側の脇腹を突き出すようにして斜め前方へ重心移動するように随伴してやるようにすると、
慣性力に負けて馬の動きに置いていかれることもなく真っ直ぐな姿勢を保ちやすくなります。

  このようにして騎手の身体の回転運動によるジャイロモーメントの発生を抑え、あるいは相殺することによって、『コリオリ捻じれ』を防ぐことが出来るのではないかと考えられます。


  頭で考えるとなかなか複雑で、混乱してしまいそうですが、
『乗馬の練習ドリル』の記事でも紹介した『パンチング』のような方法を参考に、身体の使い方の感覚を掴んで頂ければと思います。

  二蹄跡運動などを行う中で、馬の「横方向への動き」に対しても姿勢やバランスを維持できるような随伴の感覚を身につけられるように稽古しておくのも良いでしょう。



・おまけ

  この「ジャイロモーメント」を感覚的に理解するために役立ちそうなものとして、
ちょっと流行した「ハンドスピナー」と呼ばれる玩具があります。

  ベアリングとオモリを組み合わせたシンプルな構造ですが、滑らかな回転と機能美が見ているだけでも心地良く、不思議とクセになる、と一時は世界中にファンがいたようです。





  このハンドスピナーの中心部分を指でつまんで回しながら、手首をひねったりして様々に角度を変化させてみることで、回転運動の掛け合わせによる「ジャイロモーメント」を体感することが出来ます。

  こうしたもので遊びながら、乗馬時に身体に作用している力を感覚的に理解することで、「慣性力を味方につける」ことが出来れば、

より安全で気持ちの良い騎乗へと近づくことが出来るのではないかと思います。