この企画はいくつもの偶然という名の必然から生まれたアルバムであることを知って頂きたくて。
●井料瑠美1stアルバム『コノハナノサクヤヒメ』
2015年11月3日発売
それは、もう遠い日。ふと、女神の物語を紡ぐアルバムを世に出せたら！という井料さんの願いから導かれました。
まだ、漠然と、可能性だけを追い求め、アイディア段階のお話を何度も重ねて参りました。
その頃、井料さんは「欧州・美の浪漫紀行」という番組のテーマ曲を歌われておりました。
ヨーロッパにも、ケルトやロマなど、各民族固有の文化、そしてそれが奏でる音がそれぞれに有るように思います。
それらの魅力を口で表現するには難しく、宗教ともまた違い、おそらく、各民族のもっと深いところに根差したものから、湧き上がるものであろうと漠然と感じておりました。
番組で取り上げた国、そして地域を表にまとめ、井料さんとは、その番組がヨーロッパの国々を回るように、ヨーロッパ各地域・民族にまつわる女神の物語を旅したいですね、と相談しておりました。
ただ、そこで、いつも話は停滞。
国のリストをじっと見つめながら、具体性に欠け、埋まらないピースが何なのかもわからない時間が訪れました。
そうしているうちに、井料さんも私も、他に気も時間も取られて、過ぎていく日々だったことを鮮明に覚えております。
そんな時、私は取材のため、富士山に参りました。静岡側から見る富士山は雄大。本来は活火山であった富士山、いわゆる火を鎮めるために建てられた社。「富士山本宮浅間大社」。春の頃には桜が社殿の敷地いっぱいに咲き、まるで楽土。見事なさまです。
車に乗り、山梨側へ移動。そこにはうっそうと茂る緑。名水としても知られる忍野八海（おしのはっかい）。火を治めるには水は無くてはならないもの。そして富士山を治めるもうひとつの社。「北口本宮浅間神社」。ここを訪れた時には「富士山本宮浅間大社」とは全く異なる印象。衝撃と呼んだ方が相応しいほどの違いに体が震えました。
敢えてその衝撃を言葉にするならば、静岡側は「清め払われた地」。そして山梨側は「古来の万物を抱きかかえる地」。この印象はアルバムが完成するまで、そして出来上がった今でもずっと持ち続けております。
翌朝3時に起き出し真っ暗な中、本栖湖に移動。
目的の場所を目指し、山を登り始めました。当然、朝日が出るにはまだまだ早い時間。
約40分をかけて、足元の悪い道を歩きました。
大正から昭和にかけて活躍した山岳写真家の岡田紅陽氏。彼は富士山に魅了され、生涯で多くの富士山の写真を残しております。私たちも、知らず知らずに彼の写真を持ち歩いております。千円札、そして五千円札の裏面に描かれている富士山。
これは岡田紅陽の写真。彼が決まったポイントより撮影した富士山なのです。
そして、今、私が目指している場所もまさにそこだったのです。
朝日が昇りはじめ、朝焼けにつつまれた富士山は、まさに幽玄。本当にここが、現世の場所なのかさえ、疑うほどでした。寒さだけが、今、この瞬間が現実であることを教えてくれました。
本栖湖の湖面に映る、逆さ富士。湖面にたなびく雲。
金色に光指す太陽。この時、埋まらないピースがはっきりと分かったように思いました。
取材を通じ知った事。富士山をおさめる神は、女神「木花咲耶姫」。コノハナノサクヤヒメという美しい名を持つ女神。
神の特性は、「荒魂」（あらみたま）と「和魂」（にぎみたま）。
天変地異を引き起こすほどの荒ぶる側面と、日の恵み、雨のめぐみを与える優しい側面。
この両面は、私たち人間も持ち合わせる感情。
日本における神が語られたのは、1300年前に記された最古の古文書「古事記」。
古事記に表される神々は、私たちの遠い先祖。日本人のルーツ。
ゆえに、世代を超えて、身近に感じる存在であること。
これら、ひとつなぎのイメージが雷雨のように、バサッと頭の中に落ちてきたのです。
2013年10月8日。この企画が本当の意味で歩き始めた瞬間でした。
東京に戻ると、早速、井料さんに私が感じた全てをお渡ししたのです。
これから、本格的に「コノハナノサクヤヒメ」と向かい合う日々が訪れるのです。
それが、どんなに苦難の連続であったか・・・。
まだ、この時は井料さんも私も予想だにしておりませんでした。
それでは、この続きは次回にお話しいたしましょう。
サニワ（審神者）とは神託を受け、神意を解釈して伝える者。
この記事について
2015年11月3日発売
【文化家】にて先行予約受付中！
井料瑠美 『コノハナノサクヤヒメ』
価格：3,000円（税込）