『ラスト・タイクーン-ハリウッドの帝王、不滅の愛-/TAKARAZUKA・夢眩』@東京宝塚劇場 | 文化家ブログ 「轍(わだち)」

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花組トップスター、蘭寿とむさんの退団公演。
東京でもついに終わりを迎えてしまいましたが、幸運にも観劇することが出来ました

トップスターさんの退団公演というのは、もうそれだけで特別な空気が漂うものだなと思います。
作品からして、作・演出の先生(今回は生田大和先生)やスタッフさんたちがいつも以上の想いにあふれていたり、舞台を観るファンの方々の気持ちもとても深く熱いものだったり…

そんな客席のあたたかい雰囲気にも包まれ、貴重な機会と思いながら、清々しい気持ちで観劇させて頂きました。


ラスト・タイクーン

スコット・フィッツジェラルドの未完の同名長編小説の舞台化となったこの作品。
1930年代のハリウッド映画界を舞台に、大物プロデューサーの挫折と栄光を描いた物語です。

そのプロデューサー、モンロー・スター役を蘭寿とむさんが演じられました。
余分な力を抜いたその佇まい、相手役の蘭乃はなさんへの優しい眼差し、そして舞台・客席全体をも包み込んでしまう大きさ。
そこにいらっしゃるだけでにじみ出てくる“男らしさ”に、『これが卒業を決めたトップさんの舞台なんだな…』と、偉そうですが思いました…

人を幸せにする映画を作りたい。
その一心で、撮影所のスタッフたちから反発をかおうとも、自分の目標のために突き進むモンロー・スターの姿がとてもまぶしく、その情熱が何だか蘭寿さんご自身のこれまでの舞台姿と重なってくるような感覚がありました。

最初こそ、そのやり方に着いて行けず労働組合を作って抵抗していたスタッフたちも、徐々にモンローの言葉に心を通わせ、もう一度新しくやり直そうと団結していく姿には、思わず胸が熱くなってしまいました…

蘭乃さん扮するキャサリンとの初めてのデートシーン。
ともすればもうこっぱずかしい台詞・しぐさのオンパレードなのですが、蘭寿さんがやればなぜか決まる、ハマる(笑)
最初は昔の恋人に似ているからと面影を追っていたモンローですが、次第にキャサリン自身に惹かれて行きます。
キャサリンは、自分はモンローにふさわしい女ではないと戸惑いますが、お二人が心を通わせていく流れがとても自然で、それこそ映画のなかのワンシーンのようなラブシーンの王道を見せてもらえたような気がしました。


モンローに対立する、同じく映画プロデューサー、パット・ブレーディーに、二番手で次期トップスターが確定している明日海りおさんが扮されました。
いつもは端正な美貌が売りの明日海さんという印象がありますが、今回は珍しくお髭
年齢も、モンローよりも大分高めのお役だったと思いますが、渋いやり手の敏腕プロデューサーという雰囲気を無理なく出していてさすがだなと思いました。
えーと見せ場と言うのかな?(笑)←
華雅りりかさん扮する秘書バーディとオフィスラブ的場面がありまして…恥ずかしかったです!!←
しかもそれが、誰もいないオフィスで二人きりであわや…と言う時にパットの娘セシリア(桜咲彩花さん)が部屋に入って来てしまう…という気まずすぎる展開(笑);;
ですが、ネクタイほどけてシャツはだけさせたまま慌てて娘を追って外に出てくる明日海さんの風情は、何だかかっこよかったです

映画スタジオにつとめるエンジニア、ブロンソン・スミスに望海風斗さんが扮されました。
モンローのやり方に反発し、スタッフたちのリーダーとなって抵抗を扇動していきます。
いつも望海さんの素晴らしい歌には感動させられっぱなしですが、今回は怒りをぶつけるような熱い歌唱がまっすぐと客席に突き刺さるようでした。
途中で、実はキャサリンと同居していることが明かされます。
そして今の時代で言うところのいわゆるDV男でした…
ちゃぶ台返し(違)ありーの怒鳴り散らしありーの、まさしくどうにもならない男の怒りのようなものが伝わってきて恐怖すらおぼえました…が、なぜか素敵に見えてしまうづかマジック(だめだろ)
難しかったのではないかと思いますが、キャサリンを好きで好きで好きすぎるがゆえに、うまく愛情を表現出来ない不器用さ、自分の腕から去っていくキャサリンになすすべなく床に崩れ落ちる後姿、キャサリンのショルダーバッグを胸に自分の行為への後悔をにじませる姿など、どうにもできない切なさも伝わっていました。
そして最後まで、どうしようもない男のままでした……


モンローは飛行機事故でこの世を去る、という悲しい結末を迎えてしまいます…
残された者たちに何ができるか、彼のいない世界でも作り続ける事だ…と口々に言う人々。
まるでこの花組から蘭寿さんがいなくなっても、そのご意思を受け継いで舞台に立っていくのだという思いをこめているように聞こえてきます…

モンローが亡くなった最後の方に、モンローの墓地で舞台上に蘭寿さんと蘭乃さん、悠真倫さん、華形ひかるさんだけになるという場面がありまして…
蘭乃さんは次の大劇場で退団、悠真さんはこの公演が終わったら専科に異動、華形さんも夏に専科に異動…とそれぞれが花組を去ることが決まっているメンバーばかり。
役のうえとはいえ、この方々が台詞を交わす演出。
何だかそういう所にも生田先生の愛を感じたりしました。

また振付にはナポレオンに続き桜木涼介先生のお名前も。
何だか最近振りを目にしただけで『これもしや桜木先生か…?』と思てっしまうぐらいには(違うかもしれないのに(笑))ただのファンですね、わたし(笑)
今回も、場面にそぐう丁寧な振付を心がけていらっしゃるのが伝わってきて、とても引き込まれました。
このラスト・タイクーン、ナポレオン、そして東宝の『レディ・ベス』など、今年前半だけでもたくさん振付を見られて嬉しかったです。

一人一人が役に熱く熱く没頭する花組魂のようなものを感じられた、濃密なお芝居でした。


TAKARAZUKA・夢眩


いやーー楽しかったです!!☆
なかなか治らないショーに飢えてる病なもので、人がバッと出て来て揃って歌い踊ってくれるだけで心が満たされました(笑)
最初から大盛り上がりのプロローグ。
齊藤吉正先生の愛と夢に溢れた、まさに副題にもついている通り『メガ・ステージ』でした

アニメの主題歌『プリザーブド・ローズ』が使われている場面がありまして、望海さんと蘭乃さんの迫力のあるデュエットを楽しめて、個人的にはとってもお気に入りの場面になりました。

また振付に、マイケル・ジャクソンのワールドツアーにも参加したことがあると言うケント・モリ氏も招聘されました。
蘭寿さん扮する銀狼が盲目の少女(朝月希和さん)を悪から助けるという場面を担当され、とてもドラマチックに仕上がっていました。
この場面本当にかっこよくて
見たことのないような振りが随所にちりばめられていましたが、これまたそれを自分のものにして踊られる蘭寿さん始め場面に出演されているみなさん、さすがでした
悪の親玉に組長の高翔みず希さん、その下に明日海さん (笑)
ビジュアル面からしてほんとにかっこよかったです。
娘役さんでは華耀きらりさんや仙名彩世さん、乙羽映美さんたちの美貌や男前な踊りが目を引きました。

華耀さんは今年研13年のわりと上級生の娘役さん。
お芝居・ショー共に華やかなオーラが全身から放たれており、そういえば次のバウホール公演『ノクターン』のヒロインに決まっていたなーと納得しました
95期の新進男役柚香光さんの相手役と言うことで、一体どんなお芝居を見せてくださるのか…楽しみです。

仙名さんは歌に芝居にダンスに、実力の揃った娘役さん。
また乙羽さんは娘役さんにしては高身長な方だと思いますが、現代的な美貌でどこにいても目を引きます

たくさんのカップルたちが軍服と華やかなドレスでデュエットダンスを踊る場面がありまして、そこでの望海さんと芽吹幸奈さんのデュエットがとても美しかったです。
舞台上には輝く人、人、人、そして聞こえてくる音楽には美しい歌声。
本当に夢を見ているような一場面でした。

舞台上のお一人お一人に至るまで、みなさんが蘭寿さんをしっかりと見つめ盛り立てている様子がこちらにも伝わってきて、胸にせまってくる瞬間が何度もありました。。


個人的には、宝塚を見始めたころから当たり前のように舞台に立たれていた方ですので、次に花組を観る時にはもう蘭寿さんはいらっしゃらないんだなーと思うと何だか不思議な気持ちになりますが…
明日海さん率いる新しい花組も、今からとても楽しみです。

明日海さんは89期初のトップ。5組の中でも一番若いトップスターの誕生です。
プレお披露目が中日劇場公演『ベルサイユのばら―フェルゼンとマリー・アントワネット編―』、もう一つのチームが柚香光さん主演のバウホール『ノクターン』と言うことで、東京組が観劇できるのはしばらく先になってしまいそうです…
ですが、大劇場お披露目の『エリザベート』、今から楽しみにしたいです。

最後になりましたが、蘭寿とむさん、19年間、お疲れ様でした。


では、またー


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