太陽系の彼方を旅するボイジャーから、地球へ向かって送り出される微弱な電波。その信号を受け取るため、地球上では巨大なパラボラアンテナが耳を澄ませています。電波が届くまでには長い時間がかかり、いつか通信が途絶える日も訪れるでしょう。それでも、宇宙を知ろうとする人類の挑戦は、ボイジャーの旅とともに続いていきます。
― 途切れることのない、遠い宇宙からのメッセージ ―
1977年に打ち上げられたボイジャー1号と2号。
木星や土星などの惑星を探査するために出発した2機は、当初の計画を大きく超えて、今も宇宙を旅し続けています。
そして、驚くべきことに、地球から何百億キロメートルも離れた場所にいるボイジャーから、今も電波が届いています。
探査機が送り出す電波は、地球に近い場所から発信される電波とは比べものにならないほど微弱です。それでも、地球上の巨大なアンテナと高度な受信技術によって、その信号を受け取ることができるのです。
では、この電波は、いったいいつまで地球に届くのでしょうか。
今回は、ボイジャーと地球を結ぶ、目には見えない電波の旅について考えてみたいと思います。
1.電波が地球に届くまで、約22時間以上
ボイジャー1号は、太陽系の外側へ向かって進み続けています。
地球からの距離は常に変化していますが、2026年ごろには、地球からおよそ170億マイル、約270億キロメートル以上離れたところを飛行しています。
この距離を、電波は光の速さで進みます。
光や電波は、真空中では秒速約30万キロメートルで進みます。地球から太陽まで光が届くのに約8分20秒かかることを考えると、宇宙の距離の大きさを実感できます。
ボイジャー1号から地球まで電波が届くには、片道で約25時間かかる距離に達しています。ボイジャー2号も地球から遠く離れており、信号が届くまでには長い時間が必要です。
つまり、地球から送った指令が探査機に届き、その返事が地球へ戻ってくるまでには、往復で2日以上かかる場合もあるのです。
地球の近くを飛ぶ人工衛星なら、通信の遅れはごく短いものです。しかし、ボイジャーとの通信では、私たちが普段使っている通信とはまったく違う時間感覚が必要になります。
しかも、電波は距離が遠くなるほど広い範囲に広がり、受信できる強さが弱くなっていきます。
遠くへ行けば行くほど、電波を受け取ることは難しくなるのです。
2.何十億キロメートル先から、どうやって受信するのか
ボイジャーが地球に送る電波の出力は、一般的な無線通信機と比べても決して大きくありません。
送信機の出力は運用条件によって異なりますが、おおむね数十ワット程度です。
家庭で使う電気製品にも及ばないほどの小さな電力で、何百億キロメートルもの彼方から信号を届けているのです。
それを可能にしている理由の一つが、探査機に搭載された高利得アンテナです。
ボイジャーの大きなパラボラアンテナは、電波を特定の方向へ効率よく送受信するためのものです。地球の方向へ電波を集中させることで、限られた電力を有効に使っています。
一方、地球側では、NASAの深宇宙通信網(DSN)が活躍しています。
アメリカのカリフォルニア州、スペインのマドリード近郊、オーストラリアのキャンベラ近郊に設置された通信施設が、地球の自転に伴って観測できる方向が変わることを補いながら、深宇宙探査機との通信を支えています。
そこには、直径数十メートルにも及ぶ巨大なパラボラアンテナがあります。
さらに、受信した信号を高度な電子機器やコンピューターで処理することで、雑音の中から必要な情報を取り出します。
それでも、ボイジャーから届く電波は非常に弱く、受信には細心の注意と高度な技術が必要です。
この通信技術がなければ、ボイジャーが宇宙のどこにいて、どのような状態にあるのかを知ることはできません。
3.アマチュア無線の経験から考える、遠距離通信
私は以前、アマチュア無線を楽しんでいたことがあります。
10ワット程度の送信機とアンテナを使い、遠く離れた無線局と交信できたときには、電波の不思議さと面白さを感じたものです。
ときには、Eスポと呼ばれる電離層の特殊な状態によって、普段は交信しにくい遠方の局とつながることもありました。
電波は目に見えません。それでも、アンテナを通して送った信号が遠くの相手に届き、相手の声がこちらに返ってくる。
その瞬間には、距離を越えて人と人がつながったという喜びがありました。
ボイジャーの通信を考えるとき、私はその経験を思い出します。
もちろん、アマチュア無線の短波通信と、ボイジャーの深宇宙通信では、電波の周波数も伝わり方も、通信の仕組みも大きく異なります。Eスポによる通信は電離層の影響を利用するものですが、ボイジャーの電波は、基本的に宇宙空間を直接伝わって地球に届きます。
それでも、どちらにも共通するものがあります。
それは、目に見えない電波を使って、離れた場所に情報を届けようとする人間の工夫です。
アマチュア無線では、遠くの相手と交信するためにアンテナの向きや電波の状態を気にします。
ボイジャーの場合には、何百億キロメートルという距離を越えて、探査機の状態や科学観測のデータを受け取ろうとしています。
規模はまったく違いますが、電波を受け取る技術の根底には、遠くから届く微弱な信号を見つけ出そうとする知恵があるのです。
4.ボイジャーからの電波は、いつまで届くのか
ここで、今回の中心となる疑問に戻りましょう。
ボイジャーからの電波は、いつまで地球に届くのでしょうか。
その答えは、「探査機が通信に必要な電力を保ち、機器が正常に働き、地球側で信号を受信できる限り」です。
ボイジャーは太陽電池を使っているわけではありません。太陽から遠く離れた宇宙空間でも電力を得られるように、放射性同位体熱電気転換器(RTG)という電源を搭載しています。
これは、放射性物質が自然に崩壊するときに発生する熱を利用して電気を作る装置です。
ただし、時間の経過とともに発生する熱は減少し、装置の性能も低下していきます。そのため、探査機の電力は年々少なくなっています。
NASAの技術者たちは、限られた電力をできるだけ長く使えるように、観測機器やヒーターなどを順番に停止するなど、運用を工夫してきました。
これは、単に電源が長持ちするかどうかという問題ではありません。
通信機器が働き続けること、アンテナが地球の方向を向いていること、探査機が必要な情報を送信できること、そして地球側でその信号を受信できること。さまざまな条件がそろって、初めて通信が成り立ちます。
したがって、電波が届く期限を正確に言い切ることはできません。
しかし、いつか探査機の電力が不足し、通信機器が働かなくなれば、地球に届く信号も途絶えることになります。
それは、ボイジャーが旅を終えるという意味ではありません。
通信ができなくなったあとも、探査機そのものは慣性によって宇宙空間を進み続けると考えられます。
地球からの呼びかけに答えなくなったボイジャーは、静かに、そして遠くへと旅を続けていくのです。
5.信号が途絶えても、ボイジャーの旅は終わらない
ボイジャーが地球へ電波を送り続けられる時間には限りがあります。
しかし、探査機の旅そのものには、地球から見て明確な終着点があるわけではありません。
エンジンを止めても、宇宙空間では大きな抵抗がほとんどありません。そのため、外から大きな力が加わらなければ、探査機はそれまでの運動を保って進み続けます。
ボイジャーは、太陽系の外側へと進み、やがて遠い未来には、別の恒星の近くを通過する可能性もあります。ただし、特定の恒星に向けて飛んでいるわけではなく、近くを通るまでには非常に長い時間がかかります。
そして、探査機に搭載されたゴールデンレコードも、通信が途絶えたからといって消えてしまうわけではありません。
第7回で紹介したように、レコードには地球の自然の音や人間の声、音楽、画像情報などが収められています。
それは、地球へ信号を送り返すためのものではなく、いつか探査機を発見する存在があれば、地球について知る手掛かりになるかもしれない記録です。
もちろん、誰かが発見する保証はありません。
それでも、電波による通信が終わったあとにも、地球から託された記録を載せた探査機は、宇宙の中を進み続けます。
電波はいつか途絶えるかもしれません。しかし、人類が宇宙を知ろうとした証しは、探査機とともに長い時間を越えていくのです。
おわりに――遠い宇宙から届く、小さな声
私たちの暮らす地球では、スマートフォンやインターネットを使えば、遠くの人とも瞬時に連絡を取ることができます。
しかし、宇宙の彼方にいるボイジャーとの通信では、電波が届くまでに1日以上かかり、受け取る信号も極めて弱いものです。
その信号を受け取るために、世界各地の巨大なアンテナと、多くの技術者たちの努力が支えになっています。
私は、アマチュア無線で遠くの局と交信した経験を思い出すたびに、電波というものの不思議さを感じます。
目には見えない。手で触れることもできない。
それでも、電波は空間を越えて情報を運び、離れた場所にいる者同士をつないでくれます。
ボイジャーから届く信号は、単なる機械のデータではありません。
それは、人類が遠い宇宙へ探査機を送り出し、未知の世界を知ろうと努力してきた証しでもあります。
やがて、その電波が地球に届かなくなる日が来るでしょう。
けれども、その日が来ても、ボイジャーの旅は続きます。
電波が途絶えても、宇宙への旅は終わらない。
そのことを思うと、遠い宇宙を進む小さな探査機に、深い親しみを感じずにはいられません。
次回もまた、ボイジャーが私たちに教えてくれる宇宙の物語をたどっていきたいと思います。


