麻原死刑囚の死刑執行④ アレフに迫る過去の清算の3重苦 | 上祐史浩

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麻原死刑囚の死刑執行④ アレフに迫る過去の清算の3重苦

 


 テロの可能性が低い中で、麻原の死刑執行が予想される今年、アレフには今まで避けてきた過去の清算として、三つの問題が生じます。

 一つは、言うまでもなく、麻原の死刑執行自体が与える打撃です。前に述べているように、アレフの少なくとも一部(特に在家信徒に対応する道場)は、麻原は、信者がグル=麻原を必要とし、帰依を深めて、涅槃(他界・死亡)しないように懇願すれば、(その超能力によって)延命すると説き、実際に、2012年、平田・高橋・菊池といった元(幹部)信者達が出頭ないし、逮捕されて、死刑の執行が延期となった時にも、そのように解釈していました。

 また、麻原は、一連の事件の関与を認めることなく、逮捕後も、獄中から、信者に対して、逮捕前から説いていた自身の預言を説き続け、更には、自分は神のような身体(陽神)を得るので、安心するようにという主旨の獄中メッセージを出していました。麻原のハルマゲドン予言を信じる者がいるとも言われています。これが、信者が、麻原が、無罪釈放や、破局的な現象や、何かしらの超人的な力によって、生き残って復活すると盲信する原因にもなっています。

 これは、逮捕された後も20年間以上、麻原が過去の一連の事件に関与した事実、その予言が現実ではなかった事実、決して主張されたような超人ではなかったという事実を受け入れることなく、今日まで、自分の教祖と自分の信仰・思想の過ちを直視して清算することが出来なかった結果と言わざるを得ません。ただし、これは逆に言えば、国が何らかの理由で、死刑執行をとりやめた場合は、アレフは、教祖とその信仰実践が正しかった証しととらえて、彼らの言わば宗教的な勝利と解釈して、信仰と布教を深める可能性が高いこともまた事実であることに注意しなければなりません。

 麻原が死刑になった際に、良く聞かれることが「後追い自殺をする者はいないのか」ということですが、現状を見て、その可能性は低いとは思うものの、全くないとは言い切れません。

 まず、オウム真理教の教義では、グルが死んだら、後を追うべきであるという教義はありませんし、自殺は、今生の苦しみから逃げるものと解釈され、その意味で良いとはされていません。さらに、麻原は、逮捕されるよりもずっと以前に、すなわち、麻原が刑死するといった見通しなど無い時に、高弟に対して、「後を追うことは許さない。なぜならば後追うことが出来ないからだ」という主旨の話をしています(後を負うことが出来ないとは、死んだら転生するというのが麻原・オウムの教義ですが、麻原と同じ世界に転生できないということ)。

 しかしながら、これは、信者全体に公になされた説法の中ではなく、数名の高弟に話したことであり、私個人は、アレフ時代にこの事を他の信者に話していますが、今現在、アレフの信者に、どのくらい浸透しているかはよくわかりません。また、麻原が好んだノストラダムスの予言の解釈の一部に、救世主と弟子たち大勢が死亡した状態で見つかるとも解釈できるものがあります。

 そして、15年以上前の話ですが、麻原の三女が、麻原の後を追って良いという教えがあると解釈していた事実もあります。また、彼女に共に自殺を求められた幹部信者も存在しています。とはいえ、それは三女が未成年の時代の話であり、今現在はそうした精神状態ではないと思いますし、そう信じたいと思います。


 第二に、死刑執行とは直接関係がないのですが、何の因果か、オウム事件の被害者に対する賠償の問題です。これに関しては、長年続いていた被害者団体と、アレフの調停が、アレフが拒絶する形で、昨年12月に決裂しました。そのために、今年2月初めに、被害者団体が、10億円以上の賠償を求めて、東京地裁に訴える事態に至りました(なお、ひかりの輪は、約10年以上前の2009年に契約を締結し、その義務を地道に履行しています)。

 これも、これまでの義務の不履行の清算を迫られているという事になりますが、この裁判がどのように展開するか、そして、アレフがどう対応するかが注目されます。

 アレフが調停に応じなかった理由は定かではありません。しかし、基本的に、アレフは、その道場での信者の教化活動において、麻原の一連の事件の関与を認めずに、陰謀説を説いていますから、その教義・思想からして、賠償契約には前向きなれないこともあると思います。また、調停が決裂すれば、裁判になることは百も承知でしょうし、裁判の方が調停よりも有利になるとアレフが見込んでいるとも考えにくいので、支払いを拒絶する意志が相当に強いのかもしれません。


 そうした場合、アレフが何らかの形で現在有する資産を流出させて、支払いを回避する可能性が考えられます。これに対しては、被害者団体の方が、それを防止するために、判決が出る前に、資産の仮差押えのような措置を取るのか、また、裁判がどのくらいのスピードで終了し、支払い命令が出て、差し押さえなどが行われてるのかが注目されます。

 これに関連して、被害者団体の理事長は、報道によれば、長年の調停が決裂し、被害者の方々は既に高齢となっているので、速やかに裁判を終了させ、支払いを行いたいとしています。そして、この裁判は、2月2日付で提起されたものですが、それから2か月もしない3月20日が初回とされており、かなりのスピードで進みそうな気配があります。また、その日は、奇しくも地下鉄サリン事件の日ですから、報道の注目も必然的に高まると思われます。これが単なる偶然なのか、裁判所が被害者団体の要請を受けるなどして、社会の注目が集まる日を選んだのかは分かりませんが、急展開であるという印象を受けます。

 なお、以前も書きましたが、この被害者団体の賠償支払いの請求訴訟に対して、1年半ほど前に、脱会した信者を通して、アレフの幹部信者が、厳しい支払いを逃れるためか、自主解散を検討しているという情報がありました。その後も、自主解散と、そうではないいくつかの選択肢を検討しているという情報がありました。こうした情報は、被害者団体にも伝わっており、昨年までの調停の段階でも、水面下において、被害者団体とアレフの駆け引きがあったと思われ、その中で、先日正式に裁判が提起・開始されたということになります。

 こうして、麻原などのオウム事件の死刑囚の死刑執行と直接的な繋がりはないのですが、死刑の執行と、賠償の支払いという過去の清算が、同じ今年2018年~2019年という、言わば平成の最後の年に集中することになりました。


 第三に、以前の記事にも書きましたが、麻原の死刑執行と共に、アレフに発生する可能性がある重大な問題が、彼らが使用している麻原・オウム真理教の著作物の著作権の問題です。

 この著作権の問題とは、アレフが、麻原・オウム真理教の著作物を使って教団を運営し、収益を上げている中で、被害者団体は、オウム真理教の著作権は、宗教法人オウム真理教の破産業務の終結と共に、被害者団体に譲渡されており、その使用の停止をアレフに求めたことに始まっています。

 しかし、アレフは、それは、オウム真理教ではなく、麻原個人の著作物であり、被害者団体に著作権はないと反論し、事態はこう着しているようです。しかし、麻原が死刑になると、その著作権は、麻原の妻と子供たちに相続されます。その中で、アレフが使用することを認めない者がいれば、こう着状態が崩れる可能性があるということです。

 ひかりの輪で調査したところ、相続者が複数いる場合は、著作権の法律によれば、その複数の相続者の共有となり、全ての相続者が合意しない限り、他者(例えばアレフ)に著作権の利用を認めることはできず(相続者本人が利用することもできない)、その一方で、一人の相続者だけでも単独で、他者(例えばアレフ)や他の相続者が、著作物を使用することを差し止めたり、損害賠償を求める請求を裁判所にすることが出来るようです。
 
 そして、麻原の妻と子供たちの中で、アレフを裏から支配し、アレフに著作権の利用を許諾すると思われるのが妻と妻の下にいる二男です。一方、アレフから完全に離れているのが、長女と四女であり、特に四女は繰り返しメディアで、両親とアレフを否定しているので、アレフの使用を認めないと思われます。また、三女・次男・長男も、2014年頃から、アレフの体制派と対立し、裁判闘争に発展していますから、アレフの使用に反対する可能性があるかもしれません。

 こうして、相続人全体の合意を得られる見込みは乏しく、少なくとも誰かが反対すると思われますが、著作権では正当な理由なく合意を拒むことはできないとありますから、合意を拒む正当な理由があるかが、アレフの使用を認めたい家族とそうでない家族の間で裁判で争われる可能性があると思います。

 結果として認められないと言う結論が出た場合、それにアレフが無断使用を続ければ、民事上の手続きに加え、刑事事件として告訴される可能性もあります(著作権侵害の罪は重たく、最高懲役10年の重罪となる)。よって、アレフは、麻原が死亡したことが分かり次第、これまで自由に利用してきた著作権に関して、相続者家族の合意なくば、無断では利用できない状況になる可能性があります。

 著作物とは、いわゆる書籍や説法ビデオに限らず、アレフが「教学システム」と呼んでいる麻原の説法集、秘儀瞑想と呼んでいる瞑想教本(とそのビデオ動画)を初め、詞章・歌・マントラなどの映像・音響教材の一切を含んでいます。そして、その複製(手書きを含め)、販売、(道場での)陳列、上映などの全てが禁止されるために、仮に利用できなくなれば、アレフの教化活動と財務に甚大な(場合によっては壊滅的な)影響を与えると思われます。

 こうして、2018年以降、アレフは、教祖、教え(教材)、教団組織という、宗教団体の要となる三つの要素全てにおいて、過去の清算を迫られる重要な事態を迎える可能性があります。