
ラリー・ウォルターズも空を飛びたかった。アメリカ空軍のパイロットに志願したが、視力が足りずに門前払い。やむなくトラック運転手になったが、夢は捨てなかった。 1982年のある日、カリフォルニア在住のラリーは軍隊の払い下げ品ショップで気象観測用の風船42個と、ヘリウムガスのタンクを何本か買った。そして7月2日、恋人の家の庭先に愛用のジープを駐めたラリーは、バンパーにロープで安楽椅子をつなぎ、風船にヘリウムを詰めて一つずつ椅子にくくりつけ、作業が終わると椅子に寝転んだ。持ち込んだのは空気銃一挺と昼食用のサンドイッチ、半ダースの缶ビール。せいぜい10メートルくらい空に浮かんで、のんびり食事を楽しんだら空気銃で風船を一つずつ撃ってパンクさせ、ゆっくり地上へ戻ればいい。そんな算段だった。しかし見物に集まった有人たちがロープを切った途端、ラリーを乗せた安楽椅子は猛スピードで上昇しはじめた。 気がつけば高度4800メートル、風に乗ってロサンゼルス国際空港の進入路に迷い込んでいた。着陸しようとしていた旅客機の機長が気づいて管制塔に連絡した。「椅子に乗った男が空に浮かんでいる。銃を持っているぞ!」 ラリーは空気銃で風船を撃ちつづけたが、寒いから指がかじかんで・・・・・銃を落としてしまった やがて上空に救助のヘリコプターが飛来、ロープを垂らしてきた。ラリーはそれにつかまり、どうにか地上へ戻ることができた(ただし、その間にロープが送電線に引っかかり、ロングビーチ一帯が約20分間、停電した)。 駆けつけた取材陣に、なぜこんなことをしたのかと問われたラリーは、胸を張って答えたものだ。「誰だって、座ってるだけじゃ退屈だろ」
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