21日に佐賀県のベストアメニティスタジアムで行われた、U‐22マレーシア代表とのロンドン五輪アジア最終予選初戦の終了間際に右足が痙攣した状態となったが、日本はすでに3つの交代枠を使い切っていたために、力をセーブしながらそのまま試合終了までプレー。清武本人は試合後に「問題なし」を強調していたが、一夜明けた22日になっても患部の痛みが引かないため、帰阪後に精密検査を受けた結果、「右足内転筋の挫傷」で全治2週間と診断された。
清武は8月10日に札幌ドームで行われた韓国との親善試合の前半38分から、負傷したFW岡崎慎司(シュツットガルト)に代わって途中出場。スクランブルでの国際Aマッチデビューだったにもかかわらず、後半8分にMF本田圭佑(CSKAモスクワ)、10分にはMF香川真司(ドルトムント)のゴールをアシストする強心臓ぶりと非凡なパスセンスを披露した。
この一戦でアルベルト・ザッケローニ監督の評価を不動のものとしたのだろう。W杯アジア3次予選のメンバーにも続けて招集され、9月2日の北朝鮮代表との初戦では後半ロスタイムにDF吉田麻也(VVVフェンロー)の決勝ゴールをアシスト。同6日に敵地タシケントで行われたウズベキスタン代表戦でも後半開始と同時に投入され、劣勢だった流れを変えている。
清武は韓国戦からマレーシア戦までの43日間で、日本勢で唯一、決勝トーナメントに進出しているACLを含めて11試合を代表チームおよびセレッソで戦ってきた。
まだ21歳と若く、体力があるといっても、さすがに体が悲鳴を上げてしまったのだろう。清武と同じ右サイドにはベテランのMF松井大輔(ディジョン)がいるが、韓国戦は最後までベンチを温め、W杯アジア3次予選の2試合では招集すらされなかった。
A代表とU‐22代表の兼任は世界的にも決して珍しいことではないが、8月以降の清武の過密スケジュールを鑑みれば、不慮の故障を引き起こす恐れは少なからずあった。いわばリスクを承知の上で、それでも58歳のイタリア人指揮官を引きつけた清武の魅力とは何なのか。
9月28日に全国書店で発売される『論スポ』第10号で、1996年のアトランタ五輪で王国ブラジルを下した「マイアミの奇跡」をはじめ、年代別の国際試合においてスカウティングのスペシャリストとして日本代表の勝利に貢献してきた国際サッカー連盟(FIFA)インストラクターの小野剛氏に、今回のW杯アジア3次予選に見るアジア情勢を解説してもらった。
ザッケローニ監督に率いられる日本代表については、右ひざ半月板損傷で年内の復帰がほぼ絶望となった本田を欠く戦い方を聞いたが、その中で興味深かったのが北朝鮮戦、ウズベキスタン戦と清武が投入されて以降に日本の攻撃が活性化していた理由だ。小野氏は香川に相通じる清武の最大の武器として「相手のブロックの中でボールを引き出せる能力の高さ」を挙げている。
アジア王者の日本に対する国のほとんどは、選手が自陣に引いて強固なブロックを形成。失点しないことをまず優先させ、その上でカウンターに活路を見出そうとしてくる。
ゴール前になるほど相手選手の数は増え、日本が自由に使えるスペースは消されてくる。必然的にプレッシャーも増す密集地帯を嫌がり、ブロックの外側の安全地帯か、あるいは最終ラインの裏側を突こうとする日本の選手が大半を占めた中で、清武と香川だけはあえてブロックの中に生じた隙間に顔を出してボールをもらっていたと小野氏は指摘する。
中国の故事になぞらえれば「虎穴に入らずんば虎児を得ず」となる。その視点で21日のマレーシア戦の前半10分の先制点のシーンを見直してみると、なるほどと唸らざるを得ない。
日本は最終ラインでボールを回し、センターバックの鈴木大輔(アルビレックス新潟)がセンターサークル内にいるボランチの扇原貴宏(セレッソ大阪)へ短いパスを送る。
自身の基本ポジションである右サイドからゆっくりと中央へシフトしはじめていた清武は、扇原からMF東慶悟(大宮アルディージャ)へクサビのパスが入った瞬間に一気に加速。東の後方をパスと交差するように駆け抜けると、そのまま右へ急旋回。東がダイレクトで落としたボールを左足で巧みにトラップして、そのままゴールへ向かって猛然とドリブルを開始した。
ブロックを形成する側にとって、最も守備網を厚くしてある中央のスペースにクサビを打ち込まれるほど嫌なことはない。案の定、相手のセンターバックの一人が慌てて東との間合いを詰めてきた。
必然的にセンターバックがいた位置に新たなスペースが生じる。扇原が東へクサビのパスを入れた瞬間、清武は先の先までを読み、外から中央へとポジションを変えたのだろう。
清武と扇原はセレッソにおけるチームメートで、東とは下部組織時代を通じて2009年まで大分トリニータでコンビを組んできた。あうんの呼吸が存在していたことも、一連の流れるようなダイレクトプレーを生み出していた。実際、清武は試合後にこう語っている。
「クサビが入った時点でみんなスイッチが入るので、その点は上手くやれました」
東からボールを受けた時点ですでにトップスピードに達していた清武は、マレーシアの最終ラインに空いた「穴」を目指して10メートル、20メートルとどんどん進んでいく。
ただでさえ侵入させたくなかったエリアに東、清武、そして左サイドを駆け上がってきたFW大迫勇也(鹿島アントラーズ)と3人で攻め込まれたマレーシアの守備陣は、大混乱に陥っていた。
ボール保持者の清武をたまらず3人が囲もうとする一方で、本来ならば右サイドをフォローしてきた東をケアするはずの選手までもが清武との間合いを詰めてくる。
「上手く相手が食いついてきてくれたので、慶悟へパスを出せました」
最終的には4人の相手を引き付けてから、フリーとなっていた東へ右足のアウトサイドでラストパスを送る。ノールックの体勢で、しかも1メートルほどのすき間を正確無比に通すコントロール。スピードに乗った状態だからこそ、余計に清武のテクニックの高さが際立っていた。
東がすべきことは、あとは右足をしっかりとパスに合わせることだけだった。
「サコ(大迫)は見えていませんでした。自分で打つか、慶悟へパスをするかの選択でした」
4人が待ち構える「虎穴」に敢然と切り込み、大事な先制点という「虎子」を得る。ラストパスばかりが脚光を浴びたが、ラストパスに至るまでのアプローチ、特にセオリーとされるサイドではなくあえて中央でボールを受ける青写真を瞬時に描き、完璧に実践したプレーこそが清武の最も非凡な点であり、観戦に訪れていたザッケローニ監督をも魅了しているのだろう。
相手GKに防がれた前半ロスタイムのシュートを含めて、その後に訪れたゴールチャンスを決め切れない反省点はある。しかし、それを補って余りある輝きと成長の余地も清武にはあるわけだ。
先発待望論が沸き起こる中で清武を慎重に起用してきたザッケローニ監督は、おそらく10月7日に行われるベトナム代表との親善試合(ホームズスタジアム神戸)から満を持してスタメンに昇格。同11日のタジキスタン代表とのW杯アジア3次予選第3戦(長居スタジアム)で、相手が形成してくるであろう強固なブロックをこじ開けるキーマンの一人に据える戦略を練っていたはずだ。
全治2週間ならばぎりぎりでタジキスタン戦には間に合うことになるが、今月29日に予定される代表メンバー発表までにザッケローニ監督はどのような決断を下すのか。
W杯アジア3次予選、ロンドン五輪アジア最終予選がぞれぞれ2試合ずつ組まれている11月を含めて、急成長中の21歳のホープの周辺はにわかに騒がしくなってくる。