19日午前中、毎月恒例の霞ヶ関に出かけた。
そして、午後帰宅。
玄関を開けるといつものように、ジョイがさみしかったよぉ~と言わんばかりに興奮して出迎えてくれた。
いつもと変わらぬ帰宅時の日常。
そして
家の中に入り、あやが寝ているはずのソファーを見ると
あやが見当たらない。
が、次の瞬間ひいてあったブランケットの下が、かすかに動いた。
えっ!まさか!
ブランケットをめくると、そこには今まで見たコトのないあやの姿が。
明らかに尋常でない。
よく、マンガで笑いを取る為に、人やモノがぺったんこになった様子を
ペラペラな感じに描いてあるコトがある。
まさに、目の前に見えたあやの姿はあの時、それだった。
体中の水分がすべて体外に出てしまい、ペッタンコに、
そんな風に見えた。
毛の色もあの時は変わっていた。
キレイなクリーム色が真っ黒に見えた。
顔、表情もあやとは違っていた。
「あやーーー!!」
そう叫びながら、どうしてこんなコトにと思いながら
何が起きてしまったのかワケもわからずあやを抱き上げると
重さを感じなかった。まるでなかった。
抱いているコトを感じない。
そしてあの時、あやの首は無常にもぶらんと垂れ下がった。
あやのからだはびしょぬれで、かつて感じたコトがないほど熱かった。
息はあの時、まさにもう虫の息という表現がぴったりの状態だった。
あたしは
どうしよう、どうしよう、いったい何が起こったんだろう、どうしたらいいんだろう、
ダメ、ダメ、絶対ヤダ、どうしようどうしよう!!!
そうだ!熱いカラダを冷やしてあげなきゃ!
そう咄嗟に思い、
あやを抱いてお風呂場へ。
そして、あやを横たえ冷たいシャワーをカラダにかけた。
あやは動かない。
どんどんどんどんとどこかへ行ってしまうように感じた。
あたしは泣き叫んでいた。
「あや!行かないで!お願いだから行かないで!
あたしを置いて行かないで!!
ごめんね!ごめんね!
どうしよう!どうしよう!
ママ!助けて!
お願い、ダメ!ダメ!
行かないでー!」
泣き叫びながら冷たいシャワーをかけたあと、
踊り場にタオルにくるんだあやを横たえた。
あやは動かなかった。
「やだよー!やだよー!
なんでー!なんでー!
ママー!!ママー!!
お願い!あやを助けて!!
あや、あたしを置いて行かないでーーー!」
「あや!あや!あや!あや!あや!あや!・・・」
そう叫びながら、あたしはタオルの上からあやの心臓、カラダをさすった。
そして、人工呼吸をした。
そんなコト、もちろんやったコトもなかった。
しかもあやのちいさな口。
でも、咄嗟にそうしていた。
そうするコトくらいしか、思い浮かばなかった。
すると、あやのかすかなちいさな息づかいを感じはじめた。
「あや!あや!そう!お願い!お願い!」
あたしは次の瞬間、獣医に助けを求めようと思った。
日頃、獣医など行かない。
そう、最後に行ったのは5年前。
行く理由があたしなりに見当たらないほど今までシアワセにもなにもなかった。
あやもジョイもゲンキでいてくれた。
そりゃあもちろん、普段でもあやは16歳なりの足元もおぼつかないような状態。
でも、ごはんもたくさん食べ、ゲンキだった。
そう、あやは16歳。
高齢。
そんなあやが、つまり留守中、何かの拍子でひいてあったブランケットの下に、
しかも奥まで入り込み、もがいているうちにくるまれた状態になり
酸素がなくなり呼吸が出来なくなってしまったのだと思われる。
しかもブランケット。
布は厚く、保温効果も高い。
そんな状態で。。。
もしもあの日、帰宅が後、10分、15分・・・1時間遅かったら・・・
あたしは携帯に、高齢なあやとジョイ二人のもしもの時の為、獣医の電話を登録していた。
電話をかけると先生が出た。
あたしは泣きながらあやの状況と自分のしたコトを説明した。
先生は、それはショック状態だと言った。
酸素が行き渡らなくなっていたのだろうと。
あやの状態を話し、どうしたらいいですかとたずねると、
あやちゃん、16歳だよね。
もうかなり高齢だから、ムリかもしれない。
あなたに出来るコトは首に冷たい冷風を送って
声をかけてあげるコトだよ、と。
そして、今すぐ動かしてしまったら
首も座っていないのなら来る途中で亡くなってしまうかもしれない。
だから30分様子をみて、大丈夫だったら連れておいで、
と言ってくれた。
ざっと書いたが連れて行くまでの間、
あやが苦しそうな行動をとるたび、
今こうなんですが苦しいんでしょうか?
どうしたらいいでしょうか?
などと、何度電話をかけたか思い出せないほど電話をかけた。
冷たいシャワーをかけたはずのあやのカラダは
その熱さにみるみると乾いていった。
そして、だんだんと声をかけながら見ているうちに、
毛の色が元に戻りはじめたように見受けられ、
最初の状態よりも、落ち着いてきたように見え始めた。
ふと、そんな中で、あたしは妹に電話をかけようと思った。
あたしは同じようにあやを愛する妹に聞いておきたいコトがあったのだ。
妹とはあの日午前中、霞ヶ関で一緒だった。
「おつかれ。あのさ、もう今日は出かけない?」
「うん」
「クルマは乗らなくていい?」
「・・・うん」
もうこの時妹はなにかあったと気づいたようだった。
そう、あたしはショックで子供が3人もいる妹を
危険な目にあわせたくなかった。
誰だって、ショックな時はまともな運転なんか出来ない。
妹にはそんなコト、けしてさせたくない。
あやは高齢。
この出来事もそうだが、処置の最中にショックなどを起こし、
それが原因で、なんてコトは避けたかった。
いまとなってはあやの状態ははかれない。
そんな内容を妹に話すと妹はこう言った。
「おねえちゃんが一番あやのコトを知ってる。
だから、おねえちゃんが先生と話をして
先生が提案した処置を聞いて、それにかけてみようと思えたら
そうして。。。」
「うん、わかった。行って来る」
そう言ってあたしは泣きながらあやをタオルにくるみ獣医の元へとクルマを走らせた。
病院に着くと、たくさんの患者犬がいたが、急患だからあやちゃん、
と言って真っ先に診てくれた。
先生はあやを触診し、
「あ~、もう水分が抜けちゃってるよ。
まず今ショック状態だから、それを緩和させる注射とそれから点滴をした方がいい。
だけど、ほら、見てごらん。あやちゃんの目」
見るとあやの目が鼓動を刻むように左右に動いている。
「これは脳に障害が出てしまっているというコトなんだ。
これもどうにかしてあげなきゃならない。」
あたしは先生にこう言った。
「先生、あやはとても高齢です。
その普段しなれていない注射をしたコトで逆にショックとなってどうにかなってしまうコトが怖いです」
すると先生は
「このコは今夜が越せるかどうかの状態だよ。
ならばなにもしないで見守るか、かけてみるかと言ったらかける方にするでしょ?」
たしかに。。。あやなら、乗り越えてくれるかもしれない。
賭けてみよう。あやと先生を信じよう!
そう決断した。
が、点滴で預けた場合、夜中に急変したら
最後を看取れないかもしれないというのは覚悟して、と言われ
預けない方法はと訪ねると、同じような注射をして連れて帰って見守る方法があると言われた。
私は私のわがままだが、どうしても万が一の場合、あやを見守っていたかった。
一緒にいたかった。
だから、
「では注射をしてください。連れて帰って一緒にいます。」
とお願いした。
その時、注射を打ってもあやは動かなかった。
ただ横たわっているだけ。。。
そんなあやを抱きかかえ、あたしはウチへと戻った。