★SF
★ 早すぎた死?
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★ 星 あゆむ
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エリート官僚A>
「こんな事だったら、もっと好きなことをしておけば良かった。出世のために、好きな音楽もやめて、一生懸命受験勉強して、大学に行 き、好きなこともせずに、いま頑張っておけば、いい結果になると、キャリア試験も一発で通った。つとめた役所でも、二十代で課長になり三十まであと二年で 部長の声もかかりそうなのに。それが、突然、ステルス性のガンで全身がむしばまれているなんて。後二年も生きていられないなんて。」
星子>
「あなた、こんなに悲観的に考えないで。あと二年も生きていられるのはすばらしいことだとは思わないの?」
A>
「なにを言ってるんだ。いまの平均寿命なら俺は後、五十年は生きられたのだ。それが酒もたばこもやらなければガンにならないと信じて、仕事一筋 に生きてきたのだ。旅行だって、海外旅行はしたけれども、仕事がらみで丸一日ゆっくりとする事はなかった。あの青い空、万年雪の山々、エメラルドグリーン の海の色を横目で見ながら、定年になったら、ゆっくりと来てやろうと思いながら、通り過ぎていた。こんなになるのだったら、一日ぐらいゆっくりと景色を見 ていたかった。食べることと言えば、ビジネスランチやディナーばっかりだった。ヨーロッパでは、向こうの人が二時間半もかけてゆっくりと昼食をとっている のを、二十分で食い終わって、仕事にもどったもんだ。周りの人は、信じられない?という目つきでみていた。その時に食べたものが、うまかったかどうかなん か、全然覚えていない。こんな事になるのなら、あいつらみたいに、ゆっくりと食べるべきだった。ああ、なんでこんな事になるのだ。健康診断だってやって来 たのに、一番発見しにくいガンだって。そして、もう残りはすくないなんて。医者の奴。訴えてやる。くそ。」
星子>
「お願い。私に怒るのはやめてちょうだい。医者を訴えても、裁判の終わる時にはあなたはもう生きていないわよ。あなたが若い時に出会っていた ら、きっと『人生は短くて、本当にやりたい事だけをしないと、後回しにする暇なんてない』と言っていたと思います。でも、聞いてもらえなかったでしょう ね。だから、私といっしょに最後まで楽しみましょう。」
A>
「それしかないのか。でも、おまえ、なんかうれしそうだなる」
星子>
「私は、あなたと、こうしていられるのがうれしいのよ。」
A>「ありがとう。そういえば、一緒に住むようになって、何年になるかね。」
星子>
「もう、三年です。」
A>
「そうか、三年か。いままで、おまえの顔をじっくりと見るのも、久しぶりだね。でも、最近、君も疲れているみたいだね。三年前に出会った時は、十代の顔をしていたけども、最近はずいぶん老け込んでしまったなあ。苦労をかけるなあ。」
星子>
「ふけて来たのがわかる?」
A>
「俺の病気のせいかな?」
星子>
「そんなことありません。一緒にいるだけで、うれしいのです。あなたが入院して、もう後二年ぐらいしか生きられないと聞いて、ちょうどいい、一緒に幸せでいましょう。」
A>
「ちょうどいいなんて、どういう意味だ?まあいい、こんな俺で良ければ、同棲をやめて、結婚しよう。」
星子>
「結婚なんてしなくても、私は、今のままにしていて欲しい。結婚式やなんかで、時間を無駄にしたくないの。あなたの身体にさしつかえるし。」
A>
「でも、俺の気持ちが、なら結婚届をだそう。」
星子>
「いえ、それも、要りません。お願い、今のままにしておいて。」
A>
「いや、俺の気持ちがそうしたいのだ。君の故郷は、海の近くと言っていたな。どこだったかな?」
星子>
「わたし、実は、日本人は一部だけなのです。」
A>
「それは気がっいていたよ。東洋人とも西洋人ともいえないようだね。いっぱい混血が進んでいて、なんか未来の女って感じがしたもんな、お父さんかお母さんは、そうだハワイだ。きっとそうだろう。」
星子>
「いえ、もっともっと遠い、海のある所らしいです。私の育ったのは八丈島の向こうの海です。」
A>
「そうだった。最初に出会った時。あの島のビーチで出会ったのが最初だったかね。あれは、なぜあそこに行っていたのだろうか。そうか、だれかの 視察についていったのだ。なんとなく、一人ほっちだったので、『ついておいで』といったけど、本当に来るとは思わなかった。そして、仕事がいそがしくてろ くに家に帰らなくても、出ていかない。へんな女だと思ってたけども、。俺が仕事で家にいない時には何をしていたのだ?そんなことも今まで聞いたことはな かった。おれって奴は、ホントの所、自分自身にの欲求をみたす事しか考えていなかった。君の事を考えていなかった。なんて俺は、奴なんだ、何をしていたの だ。」
星子>
「あなたのいない時は、海にいっていたわ。海にいると安らぎを感じるの。時々は、兄弟やいとこ達とも会っていたわ。」
A>
「兄弟やいとこが東京にいたのか」
星子>
「はい、でも今は、いない。死んでしまったり、東京の海が合わなくて、今は遠くの海に行ってしまった。」
A>
「死んでしまったって?どうして俺に言わなかったのだ。葬式ぐらいは出たよ。葬式に行くことは仕事の一部みたいなものさ。まあ、その時の俺は、 出張中だったかも。聞く耳を持たなかっただろうな。病気で死んだのか?たぶん、おれと一緒でガンなのだろう!きっとそうだ。そうに違いない。」
星子>
「老衰だったと思います。」
A>
「老衰?君の兄弟やいとこが老衰?そんなに年が離れていたのか?」
星子>
「そういうわけでは、、、ですから、私にはもう近くには、身寄りがいないのです。」
A>
「そうか、君の親はもうなくなり、兄弟やいとこも死んでしまった。だから、俺に同情してくれているのだ。俺も今は、ひとりぼっちさ。一人っ子 だったけども、高校の時に、自動車事故で両親ともなくなってしまった。それ以来必死の人生さ。大学に入った時も、成人式も、キャリアに合格した時も、課長 になった時も、誰も祝ってくれなかったさ。俺の人生は、仕事にしか、取り組む事はなかったのさ。君と初めて出会った八丈島、なんで行ったか、思い出せない なんて、いつも、新しいどこかのエライ人と出会っていたからかな、その時の俺は、君のことを大切には思っていなかったようだ。でも、君は、俺を見捨てない でくれていたなんて。君と出会っていなかったら、俺の人生は、こうして死の病に冒されても、ひとりぼっちだったのだ。本当に、ここにいてくれてありがと う。」
A氏は在宅で緩和ケアを受けつつ、星子と毎日をすごしていた。半年後、
A>
「星子、本当にありがとう。この半年間、毎日、君のおかげで、前向きに生きる事ができたよ。『今日が最後だったら何が食べたい』と聞いてくれ て、それを一緒に食べ。『今日が最後だったらどんな音楽を聴きたい』と聞いてくれたね。そして、その音楽を聴いてきた。『今日が最後だったら、どこに行き たい』と聞いてくれた。気分の良い日は、病院から外泊してそこに旅行に行った。『今日が最後だったら、どんな事を話していたい』と聞いてくれた。そして、 その話をしていた。そうして半年が過ぎていったから、本当にいろんなモノを心ゆくまでゆっくりと食べたり、音楽を聴いたり、出かけたりできた。病気になる までにこんな体験をしたことがなかった。私が病気になるまでに、心から楽しんだでなかった事がわかったよ。そしてまもなく、本当の最後の日が近づいてきそ うだ。もう遺書を書いてある。すべての財産を君に譲る。」
星子>
「そんなもの、要りません。わたしには必要ないの。」
A>
「どうしてだ、私が死んでから、君は自分の人生を生きればいい。ただ、気にかかることがある。君は私の看病でつかれているのか、毎日老けてくる ような気がする。どこか病気でもあるのか?こうして一緒に生きてきたのだ、どうか、ウソをつかないで、本当の事をはなしてくれ。」
星子>
「私はあなたに、ウソをついたことはありません。しかし、大切なことを言わなかったのです。半年前に、私の出身について聞いたわよね。じつ は、私の半分の遺伝子は、地球の人間ではなく、パルス星の作業用動物なのです。なんでもパルス星人が、インカ帝国のピラミッドに捧げ者となっていた若い男 女をさらってパルス星に連れてゆき、作業用動物として使っていた。しかし、その星へ連れて行ってから、近親交配で、寿命が半分になったの。短くなったの よ。もともとパルス星人も含めて、寿命が短い。だいたい二年ぐらい。地球時間にすると十年ぐらいかも。インカのそのころの地球人は二十年ぐらいの命しかな かったと聞いていますが。」
A>
「なんで、宇宙人の話をするのだ。俺たちの話をしよう。」
星子>
「してるわよ。お願いきいて。それで、パルス星人は、作業動物の私達を、現在の地球に戻して、地球人と交配することによって、バルス星の寿命 を長くしようと実験したらしいの。でも、それがうまく行かなくて、バルス星人は、地球を離れてしまったらしい。それで、私たち地球人との混血が地球に取り 残されたの。残された私たちの寿命は、本当にさまざまなの。私の兄弟は、十歳ぐらいでほとんど死んでしまった。私は地球人の遺伝子が強く残っていたみたい で、今本当は、十七才なの。あなたに出会った時は、女盛りだったけども、いまはもう、おばあちゃんになっちゃった。私の残りの命は、よくもって後一年ぐら いなの。だから、私には戸籍もないから、婚姻届けは出せないの。遺産も、もらっても使う時間なんかないの。地球人と一緒になった人達は、たいていは、みん なパートナーとなった地球人よりも早く死んでしまうのです。というよりか、失踪してしまって、海に入って死んで行くの。ところが、私は、幸せなことに、も う十七年も生きている。あなたの所から、逃げて一人で死ななくて良いのよ。長生きできてよかった。この腕の中で最愛の人の死んで行くのを看取れるの。本当 に私の一生は、幸せだったわ。」
A>
「おい、星子。きみはSF小説を読んでくれているのか、もうなにもしゃべらなくて良いから、ただ抱きしめていてほしい。そう、母に抱かれていたように、こうしていると、なんにも考えないで、安心していられる。こんなに幸せなことはないよ。愛しているよ」
星子>
「あなた、何を言っているのか、よくわからないけど、随分幸せな顔してるね。良かった。私の方が、先に死ななくて。いい人生だったね。」
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