売掛金の回収に関するトラブルは企業にとって重大なリスクです。

その解決法のひとつが、裁判前交渉による合意(和解、と呼ぶこともあります)です。合意が成立した後には、原則として、合意書の作成が不可欠です。

 

 

 

 

合意ができたから支払ってもらえるし、いちいち書面を交わす必要などないのではないか、という疑問もあるかもしれませんが、実際には多くのメリットがあり、作っておいて良かった、ということになると思います。

 

【1 明確な内容の確保】

和解が成立した場合、その内容を明確に文書化することは、将来的なトラブルを予防し、関係者の間での認識の齟齬を防ぐ上で不可欠です。合意書は、和解内容や条件などを明確に示すことで、その交渉の顛末を誰が見ても分かるようにしておきます。

 

【2 合意した内容を法的に保護】

将来、合意内容が拗れて裁判となる場合、そのときの合意内容を裏付ける資料(証拠)となります。

また、分割支払いなど、支払いが長期となる合意をした場合、徐々に支払い意欲がなくなる者もいます。その際に支払い意欲を低下させないために、合意書を確認しあうなどして、支払いを続けてもらう場合もないではありません。

 

【3 迅速な紛争解決】

合意書の作成により、裁判手続きを回避し、迅速な紛争解決を図ることができます。

 

【4 解決内容の引継ぎを明確化する】

合意したときの担当者が退社した場合などで引継ぎが発生した場合、後任の担当者が見れば分かる状態にしておくことができます。

 

【5 今後の取引への影響】

今後も相手方と取引をする場合、「当方は弁護士がついていて手強い」、という印象を与えることができ、今後の代金の回収も、結果的に順調となるといった好影響ももたらすことになります。

この印象は、トラブルとなる場合だけでなく、平時から与えていくこともできますので、弁護士を利用するメリットのひとつとして、別の機会に、整理したいと思います。

 

【6 合意書作成のデメリット】

一方、合意書の作成については、案の作成、双方での決裁、調印と、一定の時間がかかります。そのため、交渉開始前から、目標設定に基づいた素案を作成しておくとか、決裁のための案の授受をオンラインでするなど、時間の短縮を図ります。

 

【7 合意書に記載すること(最低限)】

代金の支払いを求めている場合の合意書を準備するとしたら、

 

(甲が支払ってもらう側、乙が支払う側)

「乙は甲に対し、○○年○○月○○日付○○○○契約(以下「本件契約」という。)に基づく代金支払債務として○,○○○,○○○円を支払う義務があることを認める。」

「乙は甲に対し、上記金額を、○○年○○月○○○○日限り、次の口座(  )に振込送金する方法で支払う。振込手数料は、乙の負担とする。」

 

といった内容になることが多いかと思います。

これに双方の意向を踏まえて、別の条件を追加していきます。

 

たとえば、さらに支払いが遅れた場合にペナルティーを付けたい場合は、

 

「乙が前項の支払を怠ったときは、乙は甲に対し、前項の金員から既払額を控除した残額及びこれに対する○○年○○月○○日から支払い済みまで年○○%の割合による遅延損害金を、直ちに支払う。」

 

といった内容をいれたりします。

 

また、双方が外部に開示されたくない場合、

「甲と乙とは本合意の内容につき、方法を問わず、第三者に口外しない。」

 

といった内容をいれたりします。

 

以上に加え、法的手続きの観点から、必要な内容を追加していきます。

「甲及び乙は、本件契約に関し、本合意書に定めるものの他、何らの債権債務関係も存しないことを相互に確認する。」

 

こういった内容を加えていて、合意書を作成します(この例はあくまで最低限で、ケースにより加筆修正していきます)。

 

ネットでひな型を探して空欄を埋めるだけの合意書を目にすることがあります。

また今後、AIに作成してもらった合意書案が出てくると思います。すでに利用しているケースがあるかとも思います。

 

【8 まとめ】

弁護士の感想をいうと、ひな型が想定しているケースと、今回のケースが一致していない場合、漏れがあったり、余分な文言があったりしますので、失敗してしまうことがあります。漏れの内容によっては、請求が滞る結果となる重大な漏れが生じかねません。

 

AIの能力は日々向上しており驚かされますが、AIに作成してもらった合意書案についても、現に動いている契約と合っているか等、従来のひな型と同じ様な問題が発生します。

また、法的文書においてはオープンにされておらず未学習のものも少なくありませんので、現時点では、人の目によるチェックは欠かせないレベルかなとも思います。

 

そのため、仮にたった1ページの合意書であったとしても、時間が許す限り丁寧に検討し、専門家(弁護士)のチェックを経たものを利用することを、おすすめします。