はじめに。

今日は、一部かなり専門的な内容を含みます。

なるべく分かりやすく解説はしますが、やっぱり難しいと感じるかもしれません。

ご興味のある方は、ピアノの鍵盤を目の前に用意して、ぜひじっくり読んで頂ければと思います。


また、この先を読む前に、こちらのリブログを先に読まれたほうが、お話が分かりやすいかと思います。


前回、ドレミはどうやって生まれたのか について、語りました。

要点をサラッとおさらいすると、


中世の修道士グィード・ダレッツォって人が、当時、修道院で歌われていた、聖ヨハネ讃歌の歌詞を使って、歌詞の各節で冒頭にある文字を、音の名前にして、誰もが覚えて歌えるように工夫し、それがドレミの起源になったよ。

当時の音階は、ヘクサコルド(6つの弦)と呼ばれ、元々は「シ」がなくて6音でできていたんだよ。


というお話でした。


さて、音階が6音だと、ヨハネ讃歌を歌う分には良いのですが、他のものを歌って、ラより上に行きたいと思ったら、ドまでジャンプしなくちゃいけません。

なんだか不自然。

しかし、7番目の音の名前は、ヨハネ讃歌には無い、困ったぞ🤔

となりますね。


そこで、次のように考えました。

ヘクサコルドの、それぞれ隣り合う音の音程を見てみると、


ド・レ・ミファ・ソ・ラ

全 全 半 全 全


という5つの音程があることが分かります。


現代のピアノの鍵盤を見ると、白い鍵盤だけで、同じ音程関係を作る6音音階がもう1箇所あります。

ソから始まってミで終わる音階です。


しかし、当時は「シ」が無いので、ソラシドレミと歌うことができません。


そこで、この部分をも、ドレミファソラと歌うことにしました。


つまり、旋律がドレミファソラよりも上に行くとき、ソをドと読み換えて、ドから始めてドレミファソラと読むことにしたわけです。

1オクターブであれば、ド・レ・ミファ・ド(ソ)・レ(ラ)・ミファ(シド)・という具合に。

カッコの中は実際の音程を、カッコの外は読み方を表しています。

こうすると、声が続く限り、無限に音階を上っていくことができます。

このような読み替えの手法を、ムタツィオ(変換)と呼びました。

ちなみに、なぜ下がる方ではなく、上ることだけ考えているのかというと、当時の聖歌は、男声で歌うことを前提として作られていたため、低い声域であることが基本であり、そこから、より高い声域を求めていったからです。


17世紀以降、より広い声域を必要とするようになり、オペラ歌手のようなベルカント唱法が普及してくると、次第に6音しか音の名前がないことが、不自由に感じられるようになってきました。

そこで、ヘクサコルドのひとつ上の音、つまりドから数えて7番目の音に名前を与え、1オクターブにして使えるようにしようと考え始めた方がいたようです。

そして、ヨハネ讃歌の最後の行の歌詞、Sancte Iohannesから頭文字をとって、その音をSiと名付けたそうです。


すごく偉大な、前進の一歩だと思うのですが、現在のところは、それを考えた人がどこの誰であったのか示す歴史的な史料は、残念ながら見つかっていないようです。

もしかしたら、どこかの酒場で呑んでいた、しがない(シがない)おじさんが考えたのかもしれませんね(笑)


ところで、ドレミファソラシのことをアルファベットで書くと、c d e f g a bとなりますね。

わざと小文字で書いたのには、理由があります。

それは、先ほどまで説明してきた、シ、つまりbの用法について考えるためです。

ヘクサコルドの考え方では、cからaまでの6音、gからe までの6音というのがあり、旋律がヘクサコルドの範囲を越えるときには、gをcと読み替えて、つなげていくのでした。

そうすると、c d e f c d e fと読むことになるわけですが、これではCから始まるのか、Gから始まるのか、分からなくなってしまいますね。

ですから、それぞれ何の音から始まる6音なのかを、しっかり区別する必要が出てきました。


そこで、Cから始まるものを「自然のままのヘクサコルド」、それより完全5度高いGから始まるものを「堅いヘクサコルド」と呼んで分けたそうです。


なぜ、「堅い」と表現するようになったのかは定かではないのですが、一説によると、実は元々、Cよりも完全5度低い、Fから始まるヘクサコルドが存在していたらしく、こちらを「柔らかいヘクサコルド」と呼んだらしいです。


しかしよくよく考えてみると、fから順番に白い鍵盤を弾いていくなら、

f・g・a・b c・d

全 全 全 半 全

となり、3番目と4番目の音が半音ではないために、ドレミファソラには聞こえなくなってしまうわけです。

ここで、4番目の音、すなわちBを半音下げて歌う必要が出てきました。

と言っても、当時は半音下げるなどというロジカルな思考ではなく、“低めに歌う”という程度の認識だったようです。


面白いのは、このBという音については、堅いヘクサコルド(Gから始まる)では高めに、柔らかいヘクサコルド(Fから始まる)では低めに歌うこととし、それを文字の形によって区別したそうです。

つまり四角いbと、丸いbを書き分けたわけです。


こうして生まれた記号こそが、♭であり♯なのです。

♭は、bと同じ形ですよね。すなわち、丸いbです。

♯は、四角いbの形が変化したもの。元々は半音高くではなく、そのままの高さを保つ意味で使われていました。


そして、さらに♯の形が変化して、後に♮が生まれ、♯は半音高く音を取るという意味に変わっていったのでした。


こうして考えていくと、音楽が言語であることを、改めて実感致します。


楽譜というのは、紙と鉛筆さえあれば、線と丸を書き、異国の人とでも、言葉の壁を越えて、音楽という世界語を共有できる実に優れたツールです。


ですから、楽譜の読み書きを学び、心に歌を育むということは、世界中の人と友達になる手段を手にすると言っても過言ではありません。


ぜひ、グローバルな教養である音楽を、この機会に、深く学んでみてはいかがでしょうか☺️


《本日の名曲》

チャイコフスキーのバレエ組曲『くるみ割り人形』よりグラン・パド・ドゥ。

弦楽器群のピッツィカートによるバスとその上に乗るハープの伴奏、そしてオーケストラが奏でる様々な音階の魅力が、見事な美を創り上げています🎵

🎼川端優也ピアノ塾