※こちらの記事は、令和2年7月23日に書かれたものです。
皆さんこんばんは。
今回は山岡荘八氏の大作『徳川家康』(全26巻)の草創期である第3巻「朝露の巻」のご紹介です。
個人的にはこの『徳川家康』は祖母が愛読していたということで、愛着のある作品です。
読み始めたのは去る平成24年。今から8年前です。
他の本に浮気しつつも全26巻を最初に読み終えたのが、2年後の平成26年ごろだったと思います。
直後に2回目を読み始め、それが終わったのがまた2年後の平成28年ごろ。
またすぐに3回目を読み始めて今は23巻を読み終わったところです。
徳川家康というと、「織田信長と豊臣秀吉が作り上げた天下統一の功績を、関ヶ原(せきがはら)の戦いと大坂(おおさか)の陣で豊臣(とよとみ)家を滅ぼしてかっさらった」みたいな言われ方をしていますが、僕はそれを払拭(ふっしょく)したい!
この小説は全26巻あるので非常にハードルが高いのですが、この小説さえ読んでいただければ、家康のそういった「古狸(ふるだぬき)」的なイメージは一新できると信じているのです。
※記事下部に武家や公家の人物名の読み仮名を載せています。
【これまでの記事】 | |
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・第1巻―平和への願いとともに生まれた徳川家康 | ・第2巻―これぞ徳川家の柱石・三河武士の死にざまだ!! |
では、第3巻のレビューをどうぞ!
言葉以上のメッセージを遺した平手中務
物語は天文(てんぶん)22年(1553年)の尾張(おわり)、織田三郎信長の傅役(もりやく)・平手中務大輔(※)政秀の自決で幕を開けます。
※現在の通説では中務丞
この頃の織田家について詳しく知りたい方は、下記リンクをタップしてください:
『麒麟がくる』第15~16回―織田一族の関係性と斎藤新九郎高政の重臣たち
関連記事:
『麒麟がくる』第11~12回―なぜ朽木谷か?/信長家臣団の萌芽
この辺が山岡荘八氏の筆の妙です。
平手中務の死についても、その直接の原因となったと言われる諫状(かんじょう)には言葉通りではない、含まれた意味が読み取れます。
中務が普段から三郎に言っていたこと、中務と三郎との関係性、当時の世の中の状況などを加味して初めて三郎が理解できるような、そんな仕掛けを施してあります。
結局、人は他人の言うことなんて聞かないので、相手に考えさせ、自分で考え、気づくような余地を残した言葉の使い方をしているんですね。
これはとても難しいコミュニケーションの仕方ですし、相手の理解度にも依存しているのでうまく相手に伝わらない可能性もあります。
しかし結局、皆まで言っても伝わらないので、理想的なやり方とも言えます。
人は、自分で気づいたことには一生懸命になりますから。
この描き方は最後の最後、大坂に陣の直前に大御所(おおごしょ)家康が右府(うふ)豊臣秀頼へメッセージを伝えようとしたときにまで貫かれる描き方です。
人は、他人の言うことは聞きません。
自分で思考して発見しないと変われません。
結局、右府は大御所のメッセージに気づくことはできませんでしたが、それも人の世です。
大坂の陣についての関連記事:
『真田丸』第48回―有楽斎を慮る
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大航海時代に日本が侵略されなかった理由(17)―まとめ
同関連記事:
大航海時代に日本が侵略されなかった理由(15)―マレーシアの歴史について
同関連記事:
『真田丸』第49回―伊達政宗の天下取り
こういった言葉の使い方ができる山岡氏は、言葉のもつ役割を深く洞察していた方であると思いますし、人間というものを深く理解していた方だったのだろうと思います。
徳川家康の前半生を象徴する駿府時代
そしてすぐに舞台は駿府(すんぷ)へと移ります。
松平竹千代(たけちよ)と名乗っていた徳川家康の少年期。
ここで描かれるのは竹千代の恋物語。
それだけ聞くとナンパな話ですが、その後の竹千代の不幸を象徴するかのような出来事が描かれています。
※この辺りは大いなるフィクションでもあります。
当時、駿府には2人の姫がいました。
1人は亀(かめ)姫。
三河(みかわ)の権威的な存在であり、家格としては今川(いまがわ)家よりも上位であった吉良(きら)家の当主・吉良上野介義安の娘です。
※当時吉良家は今川家の勢力に圧倒され、今川家臣のような立ち位置に立たされていました。
※吉良上野介義安は『忠臣蔵(ちゅうしんぐら)』で有名な吉良上野介義央(よしひさ/よしなか)の先祖です。
もう1人は鶴(つる)姫。
こちらは今川家の一族・遠江(とおとうみ)今川家の出で、駿河(するが)今川家の有力な家臣であった関口刑部少輔親永の娘です。
少年時代の竹千代は、そういった2人の女性に翻弄(ほんろう)されますが、ほのかに亀姫に恋心を抱いていました。
しかし、亀姫は遠江曳馬(ひくま)城主・飯尾豊前守連龍のもとに嫁ぐこととなり、竹千代の恋は破れました。
※史実では、飯尾豊前の正室は鵜殿長門守長持の娘とされています。
そんな中、竹千代は成り行きで鶴姫と親しくなっていき、祝言(しゅうげん)を挙げることになります。
この鶴姫が、のち築山殿(つきやまどの)と呼ばれ、竹千代の前半生に暗い影を落とすこととなります。
この辺りで描かれているのは竹千代の優柔不断さ。
「おれはこうしたい!」とも言えずに相手に好きにさせる。
そのことによって、結果的にお互いを深く信頼するまで至ることができず、お互いを不幸にしてしまう。
僕もかなり耳が痛くなるような経験をしていますが、そういった竹千代の短所を暗示するような出来事がここで描かれています。
※この短所はのちに家臣・本多作左衛門重次にいさめられます。
関連記事:
山岡荘八『徳川家康』第4巻―徳川家康の生涯を貫く思想
※鶴姫こと築山殿についてはこちらもご覧ください→「『麒麟がくる』第21回―松平蔵人の親族」
竹千代の元服と桶狭間前夜
そしてついに竹千代は元服。
松平次郎三郎元信と名乗ります。
※「元信」の「元」は今川治部大輔義元の「元」をもらったものですが、「信」については物語中で次郎三郎が「武田大膳大夫晴信(のちの信玄)の『信』をもらった」と言っています。
しかし、すぐに今川治部より物言いがつきます。
「元信」の「信」は織田三郎「信長」の「信」ではないかと疑われたのです。
次郎三郎はすぐに諱(いみな)を「元康」と改めています。
この「康」は祖父・次郎三郎清康からもらったものです。
次郎三郎の元服により希望に胸を膨らませる岡崎(おかざき)衆〔松平(まつだいら)家臣〕たちでしたが、治部はすぐに次郎三郎を岡崎に返しませんでした。
※のちに大活躍する若き徳川家臣たちやその父祖の忠心も、この辺りの見どころの一つです。
意気消沈する岡崎衆ですが、ついに桶狭間(おけはざま)につながる治部の上洛(じょうらく)戦が始まります。
ついに、次郎三郎が主体的に動き始める時代がやってきます。
というわけで、まだまだ説明したいことはたくさんありますが、今回はこの辺にしておきます。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
次回の記事を読みたい方は、下記リンクをタップしてください:
山岡荘八『徳川家康』第4巻―徳川家康の生涯を貫く思想
以下もご覧ください!
○今回登場した人物のフルネーム(参考:「武家や公家の名前について」)
・松平 次郎三郎 源 元康〔元信。のちの徳川家康〕
まつだいら じろうさぶろう みなもと の もとやす〔もとのぶ。のちのとくがわいえやす〕
・織田 三郎 藤原〔忌部〕 信長
おだ さぶろう ふじわら〔いんべ〕 の のぶなが
・関白 羽柴 太政大臣〔通称は藤吉郎〕 豊臣 朝臣 秀吉
かんぱく はしば だじょうだいじん〔通称はとうきちろう〕 とよとみ の あそん ひでよし
・平手 中務丞〔通称は五郎左衛門〕 源 朝臣 政秀
ひらて なかつかさのじょう〔通称はごろうざえもん〕 みなもと の あそん まさひで
・羽柴 右大臣〔通称は藤吉郎〕 豊臣 朝臣 秀頼
はしば うだいじん〔通称はとうきちろう〕 とよとみ の あそん ひでより
(文献上「羽柴」を名乗った例はありませんが、名字に該当するものは「羽柴」です)
・吉良 上野介〔通称は三郎〕 源 朝臣 義安
きら こうづけのすけ〔通称はさぶろう〕 みなもと の あそん よしやす
・(今川)関口 刑部少輔〔通称不明〕 源 朝臣 親永〔義広、氏興、氏広、氏純〕
(いまがわ)せきぐち ぎょうぶのしょう〔通称不明〕 みなもと の あそん ちかなが〔よしひろ、うじおき、うじひろ、うじずみ〕
・飯尾 豊前守〔通称は善四郎〕 三善 朝臣 連龍
いのお ぶぜんのかみ〔通称はぜんしろう〕 みよし の あそん つらたつ
・鵜殿 長門守〔通称は藤太郎〕 藤原 朝臣 長持
うどの ながとのかみ〔通称はとうたろう〕 ふじわら の あそん ながもち
・本多 作左衛門 藤原 重次
ほんだ さくざえもん ふじわら の しげつぐ
・今川 治部大輔〔通称不明〕 源 朝臣 義元
いまがわ じぶのたゆう〔通称不明〕 みなもと の あそん よしもと
・武田 大膳大夫〔通称は太郎〕 源 朝臣 晴信〔入道信玄〕
たけだ だいぜんのだいぶ〔通称はたろう〕 みなもと の あそん はるのぶ〔入道しんげん〕
・松平 次郎三郎 源 清康
まつだいら じろうさぶろう みなもと の きよやす
☆武家の「通称」の普及を切に願います!
参考
『徳川家康』が書かれた背景と評価が分かりやすくまとめられています。
猿渡税理士事務所
レールはつづく
山岡氏が『徳川家康』に投影した視点から現代の平和を考えていらっしゃいます。
落語はビジネスにも役立つ!「笑う力」を身につけたい
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