暗号名黒猫を追え! | シネマ、ジャズ、時々お仕事

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1987年 プロダクションU 監督 井上梅次、岩清水昌宏 脚本 河田徹(井上梅次)
(あらすじ:ネタバレあります)
城南大ラグビー部OBの野々村(柴俊夫)は警視庁外事課警視で、主にB連邦および北方共和国向け防諜活動を担当している。目下のターゲットは「黒猫」というコードネームで暗号電信を送受している大物スパイだ。その頃、柴のラグビー部仲間で平和運動家の太田黒(高岡健二)は、同じく部OBでライターの高松(国広富之)の伝手でB連邦から資金提供を受け、平和運動を積極化するが、そこにリンダと名乗る米人美女が接近してくる。柴らはカメラ店主・島田(伊吹剛)をスパイとしてマークし、身辺調査を開始。伊吹の妻(音無真喜子)は国広の妹だった。2人の子供を儲けながら、なぜか入籍を渋る伊吹を国広は自宅で度々説得。その場に高岡が居合わせたことから、情報が筒抜けとなり、高岡には北方共和国からもスパイのアプローチが伸びた。それを知ったB連邦側の指令で、国広は高岡の暴露記事を掲載。B連邦スパイだったリンダも高岡の前から姿を消す。柴の父(久保明)が危篤に陥り、今わの際に久保は、B連邦抑留時代の過酷な経験と祖国を裏切ってスパイとなった村井の思い出を語った。村井はその後、スパイ活動が露見して自殺したという。柴と婚約者・くみ子(中島ゆたか)は父の枕元で愛を誓うが、兄(森次晃嗣)はつっけんどんな態度をとる。妹・京子(田中美佐子)は、森次も中島に思慕を抱いていたことを柴に指摘。一方、田中と婚約していた柴のラグビー仲間で商事会社重役の吉野(榎木孝明)は、柴に婚約解消を告げる。監視中の伊吹が国外逃亡を図り、柴らは巡視船とヘリで追跡するが、結局、逃げられてしまう。しかし、入手した新たな乱数表から黒猫が依然、国内に潜伏していることがわかる。その頃、B連邦スパイ・コルノフビッチ(ヴァン・ビューレン)が亡命し、同国のスパイ網の全容を自白。リストの付け合わせで村井と名乗る男が北との二重スパイであることがわかる。突き止めたアジトを柴が急襲すると、そこには榎木がいた。榎木は自殺した村井の息子だった。B連邦向け商談に注力するあまり、罠にはまって同国のスパイとなり、次いで彼は金欲しさから北ともスパイ契約を結んでいたのだ。妻の病気で金詰りになった国広をスパイ活動に導いた経緯や、高岡を使ったスパイ工作の顛末を榎木は淡々と柴に語り、詳細は自ら警視庁に出頭して自白すると告げる。しかし、警視庁に向かった榎木は、正体不明の暴走車にひき殺されてしまう。
(感想)
題名は「コード・ネーム ブラック・キャットを追え!」と読みます(藁)。
冒頭から、大映TVシリーズの麻倉未稀さんを彷彿とさせるような、肩に力の入った伊藤愛子の場違いなヴォーカルに驚かされますが、私の記憶が確かなら、この人、旧芸名を伊藤アイコといって60~70年代にかけ、洋楽のカヴァー中心に地味に活動していた人。唯一のヒット曲は「見え過ぎちゃって困るの~」というマスプロ・アンテナのCM曲ですかな。何でまたこんな古い人を引っ張ってきたんでしょうかね。音楽担当の都倉俊一の個人的趣味でしょうか(藁)。
この映画は、以前ブログに書いた山本薩夫監督の「スパイ」と同様に、明確な政治的意図に基づいたプロヴァガンダ映画です。ただし、目線が西側の親米路線に立っているので、少なくともストーリー的には「スパイ」よりも容易に理解しやすいです。上映反対運動があって中々スクリーンで見られない映画としても有名でしたが、これは内容に問題があるというよりも、スポンサーのバックに韓国のある宗教団体がいて、その団体が色々と日本で社会的な問題を引き起こしていたことの影響が大きかったような気がします。皮肉なことに、本作製作後、90年代にはいるとその団体、「北方共和国」と融和路線に入ったので、現在なら、こんな反北のストーリーではきっとスポンサー様に却下されるでしょうね(ハハハ)。なお、私は、どのような内容であろうと、上映そのものを阻止しようという示威活動には反対です。ちゃんと映画を見て、正しく内容を理解し、その上で問題点を指摘して正しく批判すべきでしょう。これは政治的な映画だけではなく、エロ・グロ・ナンセンス全ての方向性について同じです。
シナリオ作成段階でかなり注文が付いたのでしょう。脚本の河田徹(井上監督の変名だそうですが)、かなり苦労して要求されたプロットを2時間弱の尺の中に詰め込んでいますが、その結果、全ての関係者が柴俊夫の半径10m以内に固まるという不自然な状況になってしまいました(爆)。追い詰められた榎木孝明が最後に「世間は狭いもんだな」と自嘲気味に呟くシーンがありますが、この台詞は井上監督自身の自嘲のようにも聴こえます。まぁ、それでも、娯楽映画の巨匠・井上監督だけあって、外人女性は訳もなくシャワー・シーンで乳首を露出しますし、セットや調度品が見るからに安っぽい中でも、ちゃんと巡視船もどきを使った海上チェイスあり、さらにはヘリまで飛ばす大盤振る舞い! 井上監督は昔、田宮二郎の「黒の切り札」でも、低予算B級映画であるにも拘らず、無理してヘリを飛ばしていましたが、やはり、アクション映画の盛り上げにヘリは不可欠という哲学なのでしょう(藁)。しかし、このヘリ、やっと伊吹剛の乗る不審船に追い付いたと思ったら、「後5分で燃料切れです」って、一体、何の意味があったのでしょうか。まぁ、スパイ防止法制定のための広告宣伝映画ですから、制定前の防諜対策の不備を強調せよという指示があったことはわかりますが、あまりにも警察のお間抜けぶりが目立って、却って逆効果になったのではと心配です。それと、柴俊夫、友人が全部スパイとは、公安担当者として無防備すぎます! いかにも怪しい兄の森次晃嗣に対しても、「俺も親父の子だ」の一言で取り調べもせず、無罪放免にしてしまいますが、伊吹剛らに大した身元調査もせず、虎の子の漁船を売り渡してしまうのは絶対に怪しい。中島ゆたかを巡って、弟の柴に対する恨みもあったわけですからね。ここは森次に対する厳重な取調べと、柴の配置換え、思想・背後関係調査の徹底を要望します(爆)。
というわけで、映画としての出来はイマイチですが、キャスティングの豪華さは目を見張るものがあります。柴俊夫(シルバー仮面)、森次晃嗣(ウルトラセブン)、三ツ木清隆(光速エスパー)、荒木茂(仮面ライダー・ストロンガー)、真夏竜(当時竜吾、ウルトラマンレオ)と変身ヒーローが勢ぞろい! 刑事物からは伊吹剛(Gメン'75)に特捜の橘警部(本郷功次郎)、特別出演の警視総監に山村聡というテンコ盛状態です。最近、古い大映の怪談映画での頼りない本郷功次郎ばかり見ていたので、ここでのどっしりした彼の演技に改めて感銘を受けました。多少、時間はかかったものの、いい役者に成長したことがわかります。さすが、雷蔵が将来性を見込んで2年間も同衾しただけのことはあります。ただし、山村聡の起用は、いくらなんでも制服組としては年齢を取りすぎじゃあないでしょうか。
田中美佐子は製作当時20歳代後半だったと思われますが、今と全然、変わりませんねぇ。若い男の生き血をすすっているんでしょうか(藁)。もう一人、全然、変わらないのが冒頭で城南大ラグビー部主将として登場する内藤剛志。その点、現在の国広富之や三ツ木清隆の見るも無残な変貌振りは慙愧の念に耐えません。
本編には何の関係もありませんが、しばしばスクリーンに登場するNEC PC9800 VM21、懐かしいですねぇ。私が最初に買った(正確には、当時、勤めていた会社の総務企画部長に直訴して買ってもらった(藁))PCなんですよ。5インチのフロッピーを入れてDOSを起動する奴。40MBのHDDを入れて、これで一生物だ、なんて思っていました(爆)。あれから20年以上も経つんですねぇ。