先日、尾道の風景を記事に書きました。


尾道は多くの映画の舞台となっており

大林宣彦監督の「尾道三部作」などは

特に有名ではないでしょうか。


今回の記事では

先日尾道で撮影した

フィルム写真とともに

お話を進めます。



今回取り上げるのは、

1953年に公開された「東京物語」です。


監督 小津安二郎

出演 笠智衆、原節子


ストーリーから見ていきますと、

尾道で暮らす笠智衆と東山千栄子が演じる

老夫婦が東京で暮らす我が子らをを訪ね

複雑な心境と共に尾道に帰ってくるという

割と切ない物語です。




長い時間汽車に揺られ

東京で小さな開業医を営む長男、

美容院を営む長女、

そして戦死した次男の細君であるところの

原節子さん演じる「紀子さん」

に会いに行くわけですが

実の子である長男、長女は

仕事や家庭に追われ

ついつい田舎から出てきた両親を

邪険に扱ってしまいます。




そんな境遇に遭いながらも

穏やかな表情を崩さない老夫婦。

さらには、こんなことになっても

幸せな人生だったと

ご夫婦共に笑顔で会話するシーンは

涙が出てきます。


長男長女に冷遇され

紀子さんのところで

一晩厄介になるお義母さんは

ふとしたところで紀子さんの優しさに触れ

寝床で嗚咽を漏らすシーンでは

グッと心が締め付けられるような

思いでした。




番組の終盤

未明に妻が息を引きとった日の朝

夫の姿が見えず紀子さんが探しに行くと

お寺の境内で、登ってくる朝日を

じっと見つめている

夫(笠智衆)の姿がありました。


とても穏やかな顔で

「綺麗な夜明けだった。今日も暑うなるぞぅ」

と呟きます。


暗いうちからここにいて

朝日が昇るのをずっと一人で

見つめていたのでしょう。


その長い長い時間に

どれほどの想いを巡らしたのか

自身の想いをその穏やかな表情の裏に隠し

迎えにきた紀子さんに

笑顔で答える…。

その心情は、想像するだけで

とても切なくなってきます。


私の母が亡くなった日の

父の仕草、その記憶が蘇り

私自身にも

様々な想いが

込み上げてきました。




この映画では

私的に3つのポイントがありました。


ポイント① 笠智衆さんの演技


この撮影のとき、笠智衆さんは

50手前でした。

1歳しか違わない

長女役の杉村春子さんの父親役。

にもかかわらず、

人生を達観した70代のお父さん役を

見事に演じていました。


あぐらの姿勢から

「よっこいしょ」と立ち上がる仕草は

まるで私の父を見ているよう。

台詞回しだけでなく

さりげない仕草がことごとく

70代男性を表現している、

まさに脱帽です。


また、先ほど述べました

人生を達観し、

それゆえの穏やかな表情や語り口

これは筆舌に尽くしがたいです。





ポイント② 尾道と東京のコントラスト


老夫婦が東京に出てきて

長男にも長女にも構ってもらえず

紀子さんがお仕事を休んでまでして

義理の父母を東京案内するシーンでは

上野や銀座の華やかな街が出てきます。


また、長女の家は千住にあるらしく

今はなき「お化け煙突」が

産業の復興の象徴として

繰り返し出てきます。


三丁目の夕日に出てくるような

汗まみれになって働く下町の労働者は登場せず

近代的な都会人が忙しなく行き交う

ショッピング風景が出てきます。

当時の銀座松屋の外階段から臨む国会議事堂

当時はこんな景色だったんですね。


一方で尾道の景色は、

静かな尾道水道を

「ポンポン船」が

ポンポンポンポン…

と音を立てて滑るように進んでいきます。

坂の多い尾道の街も

静かに時を送り出しています。


この映画のレビューで

よく言われていることですが、

経済白書で「もはや戦後ではない」

と書かれたのは1956年。

この映画が公開された3年も後です。

もしかしたら小津安二郎監督も

ノスタルジーばかりではなく

3年後の日本を見据えて

この映画を撮られたのかもしれません。





ポイント③ 撮影の構図


小津安二郎監督の作品は

小津調と言われるほど

すぐそれとわかる手法で撮影をされてます。


ローポジションで、

(ローアングルとは違います)

かつ固定カメラで

撮影するその画角は

まるで映画ではなく

スチール写真のような

完璧な構図で撮られているんです。


小津監督自身も、1930年代にあって

ライカやコダックの

当時はまだ貴重品だったカメラで

静止画の撮影を楽しんでおられたとか。

映画なのに写真集を見ているかのような

そんな構図に驚かされます。


現在は著作物の保護期間も終了し、

YouTubeでも全編見ることができます。


よろしかったらご覧くださいませ。