【私的コラム】真のホーム・アドバンテージ、スポーツ観戦とは? | まだまだ続く独り言

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在米スポーツライターの雑記帳

 つい最近、ユーチューブでワールドカップアジア最終予選日本対オーストラリア戦後に放送された戦評番組を発見し、興味深く視聴しました。

 

その中で出演していたセルジオ越後氏が番組後半部分で、「日本のサポーターはジュリアナと思っているのね、スタジアムを。(中略)攻めても攻められても同じ応援をするな。(中略)温度差がないんだよ」と力説していました。まさに“我が意を得たり”です。今の自分の気持ちを代弁してくれていました。

 

自分も日本対オーストラリア戦を観戦しましたが(もちろんネットでです)、日本の応援はいつものように単調そのもの。特に後半の大事な場面では、日本代表のファウルやレフリーの不審な笛に対し怒号のブーイングが巻き起こるオーストラリアのサポーターに対し、日本のサポーターはチャンスでファウルを受けても「ニ・イ・ポーン、ニ・イ・ポーン、ニ・イ・ポーン!」の大合唱。観ていて悲しくなってきました。

 

“ホーム・アドバンテージ”という言葉があります。オーストラリア戦後に長谷部選手がレフリーについて聞かれ「スタジアムの雰囲気に飲まれていた」と語っています。オーストラリア・サポーターの鬼気迫る応援にレフリーさえ尻込みしてしまう。これこそがホーム・アドバンテージなのです。自分のチームを応援するばかりでなく、相手チームやレフリームまでもが嫌がる雰囲気を演出することが、サポーターのできるホーム・アドバンテージづくりなのです。

 

しかし日本で行われた2試合でもサポーターの応援スタイルはまったく変わっていません。越後氏が指摘するように、試合の流れに関係なくただ皆で合唱しているだけです。これでは相手チームはまったく恐さを感じることはないでしょう。

 

実はこのような応援スタイルはサッカーの国際試合に限ったことではありません。他のスポーツもまったく同じです。

 

昨年7月のことですが、初めて甲子園で阪神対巨人戦を観戦する機会がありました。以前から知り合いの人たちから阪神ファンが日本で最も熱狂的なファンだと聞いていたので、さぞや楽しい観戦になるだろうと期待に胸膨らませていました。確かに7回表終了後のジェット風船は印象的なシーンでしたが、サッカー同様に応援にメリハリがなく非常に単調に感じてしまいました。

 

特に9回裏に迎えたサヨナラのチャンスに、二死2、3塁から主力打者が敬遠された場面で、ファンが誰1人ブーイングすること無く、いつもの応援スタイルで「わっしょい、わっしょい」と盛り上がるだけ。あそこでファン全員がブーイングをして相手チームの作戦を罵倒するような応援をしていたら、どれだけ相手チームに嫌がれることか。長年米国のプロスポーツを観戦してきた自分にとって、拍子抜けしてしまう光景でした。

 

かつてイチロー選手がメジャーに移籍したばかりの頃、メジャーのファンを評して「野球を理解している」と語ったことがあります。私の知る限り、日本の玄人野球ファンの方がよほど野球を理解していると思います。ではどうしてイチロー選手はそう感じてしまうのか?それこそが応援スタイルに起因しているのです。

 

メジャーのファンは試合の流れに合わせて応援します。味方チームが優勢の試合展開の時は惜しみない声援を送り、いざ劣勢になると相手チームや審判に執拗なブーイング、罵声を浴びせます。

 

一方で日本のファンは、外野に陣取った私設応援団に引率されるがまま、皆で一緒に応援するのみです。あまり試合の流れに影響されることはありません。グラウンドでプレーしている選手からすれば、単調な応援を続ける日本のファンより試合に合わせて応援しているメジャーのファンの方が野球を理解していると感じ取ってもおかしくはないでしょう。

 

前述の番組で、越後氏の発言に対し試合を務めた土田晃之氏は、「国民性だからしかたがないですよ」と弁護していました。確かにそうなのだと思います。ですが、今のままでいいとは到底思えません。

 

今回のワールドカップアジア最終予選のうち、埼玉スタジアムで行われた2試合はいずれも6万人を超える観衆を集めました。ですがその中でどれだけのサポーターが、日本代表チームがどんなサッカーをしていたのかに関心を寄せ、試合を観戦していたのでしょうか。越後氏の発言ではないですが、多くのサポーターがあの場で一緒になって合唱しながら応援することに楽しみを見出していたように思えてなりません。

 

また越後氏は別の場面で、時として怠慢プレーをした味方選手さえも怒ってやらないと選手たちのレベルが上がってこないとも説明していました。これも賛同せずにはいられません。味方チームでさえ緊張感を持ってプレーさせる雰囲気作りは、間違いなく選手のパーフォーマンスに好影響をもたらすはずです。やはりファンは応援そっちのけではなく、しっかり試合を観戦すべきなのです。

 

残念ながら日本ではスポーツの世界でも人気の移り変わりが激しくなっています。それは本当の意味でスポーツを観戦するファンが少なく、ブームに乗った応援の雰囲気を楽しみたいというファンが多いからなのだと思います。プロ野球のファン離れもこの辺りが色濃く影響していると思います。

 

日本のスポーツ産業の規模は、欧米から比べるととても小さいものです。これは日本国内ではスポーツに対する価値観が軽視され、まだスポーツ文化というものが未成熟なのかもしれません。日本に本当の意味での国技がないのもそのためだと思います。

 

「国民性だから」で片づけてしまうのではなく、ブームに大きく左右されないためにも、真のファンづくりということが今後のスポーツ界に求められる課題なのかもしれません。