NHKで放送されている「美の壺」が10年目ということで、番組で取り上げたあれこれを紹介する「『美の壺』和モダン・暮らしと憧れ」展がギャラリーA4で開催中、取り敢えず覗いてみたのでありますよ。
さも「美の壺」という番組をよく見ているかのようですけれど、実は気になりながらも近寄らない、近寄れないと言いますか。うまく説明はできないのですけれど、基本的にテイストに合っているのに細かいところで違うのがどうもストンと落ちず…とでも言ったらよいのかも。
基本的に和モノを取り扱うものでありながら、ジャズ・メッセンジャーズの「モーニン」で番組を始めるあたり、心憎くもあり小面憎いとも感じることで何となく推察可能でしょうか。ともあれ、そんなこんなで見ていなかった「美の壺」で取り上げられたのはこういうものごとであったかと改めて知ったような次第でありすよ。
それにしても、この番組、いろんなものを取り上げていたのですなあ。初回が「古伊万里」で始まったように骨董系が主かとも思われるも、さにあらず。
急須、盃、縁側、煙突、駅舎、階段、京の洋館、金継ぎ、水草水槽、江戸小紋、手袋、京の干菓子、江戸前鮨、漬物、おせち料理、東京の坂、東北の温泉、銀座、鎌倉花の寺、棚田、長崎、截金、富士山、京の奥座敷…と、目の付け所は実に多様であったようで。
「美」を何と見るかを説明したとして、受け止め方は人それぞれの美意識に委ねられるも、それこそ身の回りのありとあらゆるものに目を凝らしてみれば必ず何か発見があるてなところでもありましょうか。
そうした姿勢(とは大袈裟ですが)は、昨今とみに無くなりがちな気がしますですね。ぼんやり見る、何となく眺めやるところから(ブラタモリ的に)「!」が立つこともあろうかと思いますが、寸暇を惜しんでスマホの画面に目は釘付けということですと、思わぬ発見に出くわすことも少なかろうと思うところでありますよ。
まあ、発見と言わず、再認識ということかもしれませんですが、やはり番組で取り上げられていたテーマのひとつにあった「風呂敷」は布そのもののデザイン性にも目を向けていいのものなのでしょうし、また実用という点では様々な形状のものを見事にくるんでしまう包み方もそれだけで見事なもの=「美」と言えるのでありましょう。
ちなみに「風呂敷」はそもそも何故「風呂敷」というのか、その語源ですが、展示解説によりますと、元来は文字通り風呂で敷いた布であったそうな。
昔の武士は、やがて「風呂敷」と呼ばれるようになる布をもって風呂に行き、まず脱いだ着物をその布に包んでおき、風呂上りにはその布の上で着替えたのだと。つまりはバスマットのような役割でもあったことから「風呂敷」となったのですなあ。
そうそう、触っていい展示物の中で思い掛けずも真剣に向き合ってしまったのが「寄木細工」でありました。近辺では箱根あたりのが有名でありますね。
幾何学的な模様を配しただけの何の変哲もない直方体。ですが、どこかしらが押し込める、どこかしらがスライドできる…といったからくりが仕込まれているわけで、あちこち押したり引いたりしているうちにパカっと大きく箱が開いた時の達成感、満足感と言ったら、ああた、もう。子供のようにうれしいわけで(笑)。
開けられたというだけでなくって、仕組みはどうなっているのか、作った人はよく考えたものだ…なんつうことにまで思いを馳せてしまいますと、寄木細工のコーナーに長い時間立ち尽くしていたなんつうことにもなるわけで。
とまあ、「美の壺」という番組があんなものにもこんなものにも目を向けてきたのは、それだけ日常の中に「!」がさりげなくあるということなのでありましょう。だとすれば、それに気付かないままでいるのは、ちともったいないような気がしてくる「美の壺」展なのでありました。